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遺産分割で揉める原因とは?家族の遺産相続トラブルを防ぐ解決策を弁護士が解説

 

遺産分割で揉める原因とは?家族の遺産相続トラブルを防ぐ解決策を弁護士が解説

遺産分割は、相続人同士で遺産の分け方を話し合う大切な手続きです。しかし、預貯金や不動産の分け方、生前贈与の有無、親の介護への貢献度などをめぐって意見が対立し、家族間のトラブルに発展することがあります。

「兄弟姉妹で話し合いがまとまらない」「一部の相続人が遺産を独占しようとしている」「不動産の分け方で揉めている」など、遺産相続の悩みは決して珍しいものではありません。遺産額が大きい家庭だけでなく、一般的な家庭でも、感情の行き違いや準備不足によって遺産分割が長期化するケースがあります。

遺産分割で揉めた場合は、感情的に話し合いを続けるのではなく、法定相続分や遺言書の有無、遺産の内容を整理したうえで、冷静に解決策を検討することが大切です。

この記事では、遺産分割で揉める主な原因、家族間の遺産相続トラブルを防ぐための対策、話し合いがまとまらない場合の解決方法について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

遺産分割で揉める現状と背景

「うちには大した財産がないから、相続争いなんて関係ない」
そう考えて十分な準備をしないまま相続を迎えた結果、親族間の話し合いがまとまらず、トラブルに発展するケースは少なくありません。なぜ、巨額の資産があるわけではない家庭でも、遺産分割の話し合いがこじれてしまうのでしょうか。ここでは、その現状と背景を整理します。

なぜ5,000万円以下の遺産でも揉めるのか

「財産が少ないから揉めないはず」という思い込みは、相続で注意すべきポイントの一つです。

家庭裁判所で扱われる遺産分割事件の統計では、調停や審判に至ったケースのうち、遺産総額5,000万円以下の案件が多くを占めています。さらに、1,000万円以下の比較的少額な遺産をめぐる争いも一定数あります。

このことから分かるのは、遺産分割で揉める原因が、必ずしも遺産額の大きさだけではないということです。「公平に分けてほしい」「親の介護をした分を考慮してほしい」といった思いが衝突すると、金額の多寡にかかわらず話し合いが進まなくなることがあります。財産が限られているからこそ、一人ひとりの取り分に余裕がなく、対立が深まりやすい面もあります。

不動産があると遺産分割で揉めやすい理由

遺産の中に実家などの不動産が含まれている場合、遺産分割協議は難しくなりやすいです。

預貯金であれば、金額に応じて分けることができます。しかし、不動産は物理的に分けることが難しく、誰が取得するのか、売却するのか、評価額をどう見るのかで意見が分かれやすくなります。

たとえば、3,000万円相当の実家と300万円の預貯金があり、相続人が兄弟2人の場合、長男が実家を取得し、次男が預貯金だけを受け取ると、大きな不公平が生じます。

このような場合、不動産を売却して現金化する「換価分割」や、不動産を取得する人が他の相続人に金銭を支払う「代償分割」などを検討します。ただし、「実家を売りたくない」と考える相続人がいたり、代償金を支払う資金がなかったりすると、協議が進まないことがあります。不動産の評価を固定資産税評価額で見るのか、実勢価格に近い金額で見るのかという違いも、対立の原因になり得ます。

感情の対立で遺産分割が進まなくなる理由

遺産分割の話し合いが長引く大きな理由は、家族間の感情と法律上の論点が混ざり合いやすいことです。

「自分ばかりが親の面倒を見てきた」「兄だけが生前に援助を受けていた」「長男だから多く相続すべきだ」といった主張が出ると、話し合いの目的が遺産の分け方から、過去の不満のぶつけ合いに変わってしまうことがあります。

たとえば、親の介護をしていた場合は「寄与分」が問題になることがあります。ただし、単に介護をしていたというだけで当然に多く相続できるわけではなく、親の財産の維持や増加に特別な貢献があったかを具体的に検討します。

また、兄弟の一人だけが住宅資金や多額の援助を受けていた場合は「特別受益」が問題になることがあります。これは、生前に受けた特別な利益を遺産の前渡しとして考慮し、相続分を調整する仕組みです。

一方、「長男だからすべての財産を継ぐべき」という考え方は、現在の法定相続分とは異なります。子どもが複数いる場合、原則として子ども同士の相続分は平等です。

このように、感情的な主張をそのままぶつけ合うのではなく、寄与分、特別受益、法定相続分などの法律上の枠組みに整理することで、冷静に話し合う土台を作りやすくなります。

相続を放置するリスクと注意すべき期限

「話し合うと揉めるから、しばらく放置しておきたい」と考える人もいます。しかし、相続手続きには期限があるものも多く、先送りにすると不利益が生じる可能性があります。

特に注意したいのが、次の期限です。

相続放棄

相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。被相続人に借金や未払金がある場合、期限を過ぎると相続放棄が難しくなり、負債を引き継ぐ可能性があります。

相続税の申告・納付は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内が期限です。期限までに申告や納付をしないと、加算税や延滞税がかかる場合があります。配偶者の税額軽減などの特例を利用する場合も、申告手続きが重要になります。

遺留分侵害額請求

遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に行う必要があります。また、相続開始から10年を過ぎると請求できなくなるため注意が必要です。

相続登記

相続登記については、2024年4月から義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料に処される可能性があります。

遺産分割の話し合いが進まない場合でも、期限のある手続きを放置すると状況が悪化することがあります。まずは、遺産の内容、相続人、期限の有無を整理し、必要に応じて専門家に相談しながら対応を進めることが大切です。

相続で揉めやすい家族に共通する特徴

遺産分割がこじれるのは、特定の相続人が悪いからとは限りません。それまでの家族関係の距離感や、生活環境の違い、親との関わり方の差などが積み重なり、相続をきっかけに表面化することがあります。

たとえば、次のような事情がある家庭では、遺産分割の話し合いが長引きやすくなります。

これらに当てはまる場合、相続人同士の認識にずれが生じやすく、話し合いが感情的になることがあります。以下では、それぞれの特徴を詳しく見ていきます。

兄弟姉妹間でのコミュニケーション不足

相続トラブルの多くは、兄弟姉妹の間で日頃の情報共有が不足していることから始まることもあります。

大人になってそれぞれが別の家庭を持ち、離れて暮らすようになると、お互いの生活状況や親の近況が見えにくくなるものです。普段から連絡を取り合っていない関係で、親の死後に突然お金や不動産の話を始めれば、警戒心や不信感が生じやすくなります。

実家近くで親の面倒を見ていた相続人の中には、「自分ばかりが負担してきた」と感じる人もいます。一方、離れて暮らしていた相続人が、「親の財産を正確に開示してもらえているのか」と不安を抱くケースも少なくありません。

こうした誤解を防ぐには、初期の段階で遺産の内容を整理し、預貯金、不動産、借金の有無などを相続人全員で確認できるようにすることが大切です。

配偶者や親族の介入による複雑化

遺産分割は、本来、相続人同士で進める話し合いの手続きです。ただし、相続人の配偶者や親族が強く関与すると、協議が複雑化するケースも少なくありません。

相続権を持たない第三者は、当事者同士のこれまでの関係性や親との思い出を十分に共有していないことも、一つのパターンです。そのため、「もらえるものはきちんと主張した方がよい」「将来の生活資金のために多く確保した方がよい」といった現実的な視点から、相続人本人へ助言することもあります。

もちろん、配偶者や親族に相談すること自体に問題があるわけではありません。ただ、本人の意思よりも周囲の意見が強くなりすぎると、まとまりかけていた合意案が白紙に戻ることや、遺産分割とは直接関係のない親族間の不満が持ち込まれることもあります。

冷静に話し合うためには、交渉の場では相続人本人の意思を中心に確認し、必要に応じて弁護士などの第三者を通じて論点を整理することが効果的です。

親の生前からの不公平感と特別受益の整理

親の生前から「特定の兄弟姉妹だけが援助を受けていた」という不公平感がある場合、相続開始後に対立が表面化してしまうかもしれません。

たとえば、一部の兄弟姉妹だけが高額な学費、住宅購入資金、開業資金などの援助を受けていた場合、他の相続人は「遺産分割ではその分を考慮してほしい」と考えることがあります。

このような場合に問題となるのが「特別受益」です。特別受益とは、相続人が被相続人から生前贈与や遺贈などによって特別な利益を受けていた場合に、その利益を相続分の計算で考慮する仕組みです。ただし、すべての援助が当然に特別受益になるわけではありません。援助の内容、金額、時期、親の資産状況、他の相続人との公平性などを踏まえて判断されます。

そのため、感情的に「ずるい」と責めるのではなく、預金通帳の履歴、贈与契約書、送金記録などの資料を確認し、法律上どのように評価されるのかを整理することが大切です。

遺産分割で揉めやすい代表的なパターン

遺産分割で争点になりやすいテーマは、ある程度共通しています。特に、不動産の分け方、介護への貢献、使途不明金をめぐる疑いは、相続人同士の対立につながりやすい問題です。ここでは、遺産分割で揉めやすい代表的なパターンを見ていきます。

不動産の評価額と分割方法をめぐる対立

不動産をめぐる対立は、遺産分割でよく見られるトラブルの一つです。

特に問題になりやすいのは、不動産の価値をいくらと見るかという点です。不動産の評価には、路線価、固定資産税評価額、実際の売買価格に近い実勢価格など、複数の基準が存在します。どの基準を採用するかによって評価額が変わるため、相続人の間で意見が分かれやすくなることに、注意が必要です。

たとえば、実家を相続して住み続けたい相続人は、他の相続人へ支払う代償金を抑えるため、低めの評価額を希望することがあります。一方、実家を取得しない相続人であれば、公平な分配を求めて実勢価格に近い評価を主張するケースも少なくありません。

このように、それぞれの立場によって希望する評価方法が異なるため、当事者だけでは合意に至りにくい傾向があります。早い段階で不動産会社の査定を複数取得する、不動産鑑定士に相談するなど、客観的な資料をもとに話し合うことが大切です。

介護の貢献度をめぐる寄与分の主張と注意点

「長年、親の介護を担ってきたのだから、遺産を多く受け取りたい」と考える相続人もいます。介護の負担が大きかった場合、その思い自体は自然なものです。

ただし、法律上の「寄与分」が認められるかどうかは、単に介護をしていたという事実だけでは判断されません。寄与分は、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献があった場合に考慮されるものです。

たとえば、相続人が無償で長期間介護を行った結果、本来必要だった介護サービス費や施設費の支出を抑えられた場合などは、寄与分が問題になることがあります。一方で、週末に様子を見に行っていた、通院に付き添っていたといった事情だけでは、寄与分として認められにくいこともあります。

寄与分を主張する場合は、介護記録、医療費や介護サービスの資料、親の生活状況、他の相続人との役割分担などを整理することが重要です。「大変だったから分かってほしい」という感情だけでなく、客観的な資料に基づいて説明できるよう準備しましょう。

使途不明金がある場合の預貯金取引履歴の確認方法

親の通帳を確認した際、生前にまとまった金額が何度も引き出されていると、「誰かが勝手に使ったのではないか」と疑いたくなることがあります。

しかし、証拠がない段階で相手を強く責めると、話し合いが一気に感情的になり、解決が遠のくおそれがあります。まずは、冷静に事実関係を確認することが大切です。

相続人であれば、金融機関に対して被相続人の預貯金取引履歴の開示を求められる場合があります。取引履歴を確認し、いつ、どの口座から、いくら引き出されたのかを整理しましょう。

次に、その時期の親の状況を確認します。親が入院中だったのか、施設に入っていたのか、認知症の症状があったのかなどによって、本人が自ら引き出した可能性や、家族が代わりに管理していた可能性を検討できます。

また、引き出されたお金が医療費、介護費、施設費、生活費、リフォーム費用など、親本人のために使われていた可能性もあります。領収書、請求書、介護施設の記録などを確認し、正当な支出と説明できるものを切り分けることが必要です。

それでも説明がつかない引き出しが残る場合は、相手方に使途の説明を求めます。使い込みが疑われる場合には、不当利得返還請求や損害賠償請求を検討することもありますが、証拠の整理や法的な見通しが重要です。早めに弁護士へ相談し、感情的な対立になる前に対応方針を確認するとよいでしょう。

遺産分割協議で避けたい行動

遺産分割の話し合いでは、精神的な負担から、つい感情的な言動をしてしまうことがあります。しかし、相手を強く責めたり、独断で遺産を使ったり、連絡を無視し続けたりすると、かえって解決が遠のくおそれがあります。

ここでは、遺産分割協議で避けたい代表的な行動と、そのリスクを解説します。

感情的な言葉で相手を攻撃する

親族間の話し合いで避けたいのは、過去の確執や人格否定を交えた感情的な発言です。

「昔から家族のことを考えていなかった」「自分勝手だ」などの言葉をぶつけると、相手は防御的になり、冷静な話し合いが難しくなります。遺産の分け方を話し合う場だったはずが、過去の不満をぶつけ合う場に変わってしまうこともあります。

感情的な対立が続くと、相手が直接の協議を拒む、家庭裁判所の調停に進む、相続後の親族関係が悪化するといった事態につながりかねません。また、話し合いが長引く間に、相続税申告や相続登記など期限のある手続きへの対応が遅れる可能性もあります。なお、相続税申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内が原則であり、期限を過ぎると加算税や延滞税が発生する場合があります。

直接話すと感情的になりやすい場合は、メールや書面など、内容を確認してから送れる方法に切り替えるのも一つの方法です。必要に応じて弁護士などの第三者を入れ、感情ではなく論点を整理しながら進めることが大切です。

勝手に預貯金を引き出して使う

「葬儀費用を払うため」「入院費の精算が必要だから」といった理由があっても、他の相続人に説明しないまま被相続人の預貯金を引き出して使うと、トラブルになることがあります。

相続開始後の預貯金は、遺産分割の対象になります。一定の範囲で遺産分割前に払戻しを受けられる制度はありますが、自由に使ってよいわけではありません。使途が不明確だと、他の相続人から「勝手に使ったのではないか」と疑われ、不当利得返還請求や損害賠償請求の問題になる可能性があります。

また、相続放棄を検討している場合は特に注意が必要です。遺産を処分したと評価される行為をすると、単純承認とみなされ、相続放棄が認められにくくなるおそれがあります。なお、相続放棄をするには家庭裁判所への申述が必要で、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きを行わなければなりません。

やむを得ず支払いが必要な場合は、できる限り事前に他の相続人へ説明し、同意を得ておくと安心です。支払い後は、領収書、請求書、振込記録などを保管し、何に使ったのか説明できる状態にしておきましょう。

相手からの連絡を完全に無視する

相手の主張に納得できない場合でも、連絡を完全に無視し続けることはおすすめできません。

遺産分割協議は、原則として相続人全員の合意が必要です。連絡を無視していると、他の相続人から「話し合いに応じる意思がない」と受け止められ、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てられる可能性があります。

また、不動産の名義変更や預貯金の解約、相続税申告など、相続に関する手続きが進まなくなることもあります。期限のある手続きが遅れると、過料や加算税、延滞税などの負担につながる場合もあるため注意が必要です。

提案内容を受け入れられない場合は、無視するのではなく、「提案には同意できません」「こちらはこのように考えています」と、簡潔でもよいので書面やメールで意思を伝えることが大切です。

直接やり取りすることが精神的に大きな負担になる場合は、弁護士に相談し、交渉窓口を任せる方法もあります。相手と距離を取りながら、必要な手続きを止めないことが重要です。

遺産分割で揉めたときの解決方法と流れ

当事者同士の話し合いが平行線をたどり、これ以上進まないと感じた場合は、無理に直接交渉を続ける必要はありません。感情的な対立を避けながら、段階的に解決を目指すことが大切です。
遺産分割で揉めた場合の一般的な流れは、次のとおりです。

段階

内容

遺産分割協議

相続人同士で遺産の分け方を話し合う

記録に残る方法への切り替え

メール・書面でやり取りする、または弁護士を通じて交渉する

遺産分割調停

家庭裁判所で調停委員を交えて話し合う

遺産分割審判

調停が不成立になった場合、裁判官が判断する

感情的な直接対話を避け、記録に残る方法へ切り替える

話し合いがこじれたときの初動対応として大切なのは、感情的な直接対話をいったん避けることです。

顔を合わせたり電話で話したりすると、声のトーンや表情から感情が刺激され、言い争いになってしまうことがあります。そのような場合は、連絡手段をメール、LINE、手紙などの文字に残る方法へ切り替えるとよいでしょう。

文字でのやり取りにすれば、送信前に「この表現は相手を刺激しないか」「こちらの希望が正確に伝わるか」を確認できます。また、やり取りが時系列で残るため、後から「言った・言わない」の争いを避けやすくなります。

相手には、「冷静に話し合いを進めるため、今後はメールでやり取りしたい」と伝えると自然です。対話を拒絶するのではなく、誤解を防ぐための方法であることを示すと、無用な反発を抑えやすくなります。直接のやり取りが難しい場合は、弁護士を窓口にすることも検討できます。

家庭裁判所での遺産分割調停の仕組み

書面でのやり取りを重ねても合意できない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法もあります。

調停は、裁判所で行われる手続きですが、いきなり裁判官が結論を決めるものではありません。調停委員が間に入り、相続人それぞれの事情や希望を聞きながら、話し合いによる解決を目指します。

調停では、当事者から事情を聴いたり、必要に応じて資料の提出を求めたり、不動産の評価等を確認したりします。そのうえで、各相続人がどのような分割方法を希望しているのかを整理し、合意に向けた助言や解決案の提示が行われることがあります。

相続人同士が同じ部屋で直接話すのではなく、別々に事情を聴かれる運用がされることもあります。そのため、親族と顔を合わせて口論になることが不安な場合でも、比較的落ち着いて話を進めやすい手続きです。ただし、裁判所の運用や事案によって進め方は異なるため、不安がある場合は事前に確認しておくと安心です。

調停は、平日の日中に期日が開かれることが多く、解決まで数か月から1年以上かかる場合もあります。それでも、当事者だけで感情的な対立を続けるより、論点を整理しながら進めやすい点がメリットです。

裁判官が判断する遺産分割審判の概要

調停を重ねても合意に至らず不成立となった場合、手続きは遺産分割審判へ移行します。

審判は、調停のように合意を目指す話し合いではありません。裁判官が、当事者の主張や提出された資料、遺産の内容、各相続人の事情などを踏まえて、遺産の分け方を判断する手続きです。

審判では、感情的な不満だけではなく、法律上どのように評価されるのかが重要になります。特に、次のような資料や主張を整理しておくことが大切です。

確認すべき点

主な内容

法定相続分

各相続人の基本的な相続割合

特別受益

生前贈与や住宅資金援助などを裏付ける資料

寄与分

介護や事業協力などによる財産維持・増加への貢献

不動産評価

査定書、不動産鑑定評価書、固定資産税評価証明書など

審判が確定すると、その内容に従って遺産分割を進めることになります。相手が金銭の支払いなどに応じない場合には、事案によって強制執行などの手続きを検討することもあります。

ただし、審判では自分の希望どおりの分け方になるとは限りません。不動産を誰が取得するのか、売却して分けるのかなども、法的な観点や遺産の状況を踏まえて判断されます。審判を見据える段階では、早めに弁護士へ相談し、証拠や主張を整理しておくことが重要です。

特定の資産や事情がある場合の対処法

相続財産の内容や相続人の事情によっては、通常の話し合いだけでは解決が難しい場合があります。不動産を残したい相続人がいる場合、借金が見つかった場合、行方不明の相続人がいる場合などは、それぞれに合った法的手続きを検討することが大切です。

家を売りたくない相続人がいる場合の代償分割

「実家を売らずに、自分が住み続けたい」と希望する相続人がいる一方で、他の相続人が「自分の取り分に相当する金銭を受け取りたい」と考える場合があります。このようなときに検討される方法の一つが、代償分割です。

代償分割とは、特定の相続人が不動産などを取得する代わりに、他の相続人へ代償金を支払う分割方法です。

内容

相続財産

実家評価額3,000万円

相続人

長男・次男の2人

法定相続分

各2分の1

分割方法

長男が実家を取得し、次男へ1,500万円を支払う

この方法を成立させるには、不動産の評価額について相続人全員が納得できること、代償金を支払う側に資金の準備があることが重要です。支払い方法は一括払いだけでなく、合意できれば分割払いを検討する場合もあります。

一方、代償金を支払う資力がない場合は、代償分割が難しくなることもあります。その場合は、不動産を売却して代金を分ける換価分割など、別の方法を検討する必要があります。

借金などの負の遺産が見つかった場合の選択肢

親が亡くなった後に、借用書やローンの通知、督促状などが見つかることがあります。こうした負債が判明した場合は、慌てて自分の財産から返済する前に、相続財産と債務の全体像を確認することが大切です。
相続人には、主に次の3つの選択肢があります。

選択肢

内容

注意点

単純承認

プラスの財産も借金などの負債も引き継ぐ方法

相続財産を処分した場合や、期限内に放棄・限定承認をしない場合、単純承認と扱われることがあります

相続放棄

初めから相続人ではなかったものとして、プラスの財産も負債も引き継がない手続き

家庭裁判所への申述が必要です

限定承認

相続で得た財産の範囲内で負債を支払う手続き

相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑になりやすいです

相続放棄や限定承認は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があります。借金があるか分からない場合は、通帳、郵便物、契約書、督促状などを確認し、必要に応じて信用情報機関への照会も検討しましょう。

ただし、被相続人の借金をすべて信用情報機関だけで把握できるとは限りません。保証債務、個人間の借入れ、税金、未払医療費などが残っている場合もあるため、早めに専門家へ相談することが重要です。

行方不明の相続人がいる場合の不在者財産管理人

相続人の中に、長年連絡が取れず住所も分からない人がいる場合、遺産分割協議をそのまま進めることはできません。遺産分割協議は、原則として相続人全員で行う必要があり、一人でも欠けた合意は無効になる可能性があります。

このような場合に検討するのが、不在者財産管理人の選任です。不在者財産管理人とは、行方不明の人の財産を管理・保護するために、家庭裁判所が選任する管理人です。

ただし、不在者財産管理人が選任されれば、すぐに遺産分割協議を自由に進められるわけではありません。不在者に代わって遺産分割協議をしたり、不在者の財産を処分したりするには、家庭裁判所から権限外行為許可を得る必要があります。

また、不在者財産管理人は、行方不明者本人の利益を守る立場です。そのため、行方不明者の取り分を大きく減らすような分割案には、基本的に同意しにくいと考えられます。

行方不明の相続人がいる場合は、戸籍や住民票の附票などで所在調査を行い、それでも連絡が取れないときに、不在者財産管理人の選任を検討します。手続きが複雑になりやすいため、早めに弁護士などへ相談しながら進めると安心です。

正当な利益を守るために知っておきたい法的権利

「これ以上揉めるのが嫌だから、自分の取り分を諦めて相手の言い分に従おう」と考えてしまう人もいます。

しかし、一度遺産分割協議書に署名・押印すると、後から内容を覆すのは簡単ではありません。後悔を避けるためにも、法律上主張できる権利を整理しておくことが大切です。

遺言書があっても主張できる遺留分の考え方

「すべての財産を長男に相続させる」といった遺言書があった場合でも、他の相続人が一切何も受け取れないとは限りません。

法律では、一定の相続人に最低限の取り分として「遺留分」が認められています。遺留分が認められるのは、被相続人の配偶者、子どもや孫などの直系卑属、父母などの直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺言や生前贈与によって遺留分が侵害された場合、財産を多く受け取った人に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求できます。これを遺留分侵害額請求といいます。

以前は、遺留分をめぐって不動産の共有関係が生じることもありましたが、現在は原則として金銭請求として整理されています。そのため、「不動産そのものを返してほしい」と求めるのではなく、侵害額に相当する金銭を請求する形になります。

ただし、遺留分侵害額請求には期限があります。相続開始と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年を過ぎると、時効により請求できなくなる可能性があります。また、相続開始から10年が経過した場合も同様です。

不公平な遺言書が見つかった場合は、早めに内容を確認し、必要に応じて内容証明郵便などで権利行使の意思表示を行うことが重要です。

特別受益を考慮した持ち戻し計算の考え方

「特定の兄弟姉妹だけが、生前に親から多額の資金援助を受けていた」という場合、不公平感が生じやすくなります。このような場面で問題になるのが「特別受益」です。

特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前贈与や遺贈などによって特別な利益を受けていた場合に、その利益を相続分の計算で考慮する仕組みです。住宅購入資金、開業資金、高額な学費などが問題になることがあります。ただし、すべての援助が当然に特別受益になるわけではなく、援助の内容や金額、親の資産状況、他の相続人との公平性などを踏まえて判断されます。
たとえば、次のようなケースで考えてみましょう。

項目

内容

残された遺産

3,000万円

相続人

長男・次男の2人

生前贈与

長男が住宅購入資金として1,000万円を受け取っていた

この場合、3,000万円に生前贈与分1,000万円を加えた4,000万円を「みなし相続財産」として考えます。兄弟2人の法定相続分が2分の1ずつであれば、本来の取り分は各2,000万円です。

長男はすでに1,000万円を受け取っているため、残された遺産からの取得分は1,000万円、次男は2,000万円を取得するという計算になります。

特別受益を考慮すると、実質的な公平を図りやすくなります。ただし、何十年も前の贈与を主張する場合は、送金記録、通帳の履歴、贈与契約書などの客観的な資料が重要です。単に「不公平だ」と主張するだけでは、合意や調停で認められにくいことを覚えておきましょう。

寄与分が認められる要件と注意点

「仕事を辞めて親の介護を続けた」「親の事業を長年無償で手伝った」など、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人は、寄与分を主張できる場合があります。

寄与分とは、共同相続人の中に被相続人の財産の維持または増加について特別に寄与した人がいる場合、法定相続分に加えて、その貢献を考慮する制度です。協議でまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用することもできます。

寄与分が問題になりやすい例は、次のとおりです。

内容

家業への協力

親の商売や農業を、無償または低い報酬で長期間手伝った

財産上の給付

親の医療費や施設費を自分の財産から支払い、親の財産減少を防いだ

療養看護

介護サービスを利用すれば発生した費用を、自ら介護することで抑えた

ただし、親子間の通常の扶養や協力の範囲にとどまる場合、寄与分として認められにくいことがあります。重要なのは、単に「大変だった」という事情だけでなく、被相続人の財産の維持や増加にどのようにつながったかを客観的に説明できることです。

寄与分を主張する場合は、介護記録、医師の診断書、介護認定資料、支出の領収書、家業への関与を示す資料などを整理しておくとよいでしょう。自分の貢献が法的に評価される可能性があるか不安な場合は、早めに弁護士へ相談することが大切です。

弁護士に相談するメリットと費用の目安

遺産分割の対立が深まり、親族間の話し合いが進まない場合、当事者だけで解決しようとしても限界があるかもしれません。弁護士に相談することで、法的な見通しを確認し、感情的な対立を整理しながら解決策を検討しやすくなります。ここでは、弁護士に相談するメリットと、依頼時に確認したい費用の目安を解説します。

弁護士に依頼すべき事例と相談時に確認したいポイント

「まだ調停になっていないのに、弁護士に相談するのは大げさではないか」と感じる人もいます。しかし、問題が複雑になる前に相談すれば、協議で解決できる可能性や、調停に進んだ場合の見通しを早めに確認できます。
特に、次のような状況では、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。

初回相談では、解決までの流れ、必要な資料、自分の主張が法的に認められる可能性、費用の見積もりを確認しましょう。「勝てるかどうか」だけでなく、リスクや見通しも説明してくれるかが重要です。弁護士を選ぶ際は、相続分野の経験に加え、話を丁寧に聞き、費用や方針を分かりやすく説明してくれるかを確認してください。

法的根拠に基づく分割案を検討できる

弁護士に依頼するメリットは、親族間の感情的な対立を、法律上の論点として整理しやすくなることです。

当事者同士の話し合いでは、「昔から不公平だった」「自分ばかり親の面倒を見てきた」といった感情的な主張が続き、協議が進まなくなることがあります。弁護士が関与すれば、次のような点を整理しながら、現実的な分割案を検討することができます。

整理する項目

内容

法定相続分

各相続人の基本的な相続割合

不動産評価

査定書や評価資料をもとにした代償金の検討

特別受益

生前贈与や住宅資金援助などを考慮できるか

寄与分

介護や事業協力などが財産維持・増加に貢献したか

使途不明金

取引履歴や領収書をもとに返還請求の可否を確認

裁判所の遺産分割調停では、当事者から事情を聴き、資料提出や鑑定などを踏まえながら、解決案の提示や助言を行って合意を目指します。 そのため、調停に進む可能性がある場合は、早い段階で証拠や主張を整理しておくことが大切です。

弁護士は、相手方との交渉や調停での主張整理をサポートできます。ただし、依頼すれば必ず希望どおりの結果になるわけではありません。法的な見通しとリスクを踏まえ、現実的な解決点を探る姿勢が重要です。

弁護士費用の目安と確認すべきポイント

弁護士費用は、事務所の料金体系、遺産の金額、争いの複雑さ、交渉だけで終わるのか調停・審判まで進むのかによって異なります。依頼前には、総額の見通しを必ず確認しましょう。
一般的な費用項目は、次のとおりです。

費用項目

内容

目安

相談料

正式依頼前に状況を相談する費用

30分5,000円〜1万円程度。初回無料の事務所もあります

着手金

依頼時に支払う費用。結果にかかわらず返還されないのが通常

20万〜50万円程度。ただし案件により異なります

報酬金

解決時に成果に応じて支払う費用

獲得額や経済的利益に応じて変動します

実費・日当

印紙代、郵便切手代、戸籍取得費、交通費、出廷日当など

事案や裁判所の場所によって異なります

日弁連は、着手金は事件を依頼した段階で支払うもので、結果に関係なく返還されないこと、報酬金は事件が成功に終わった場合に支払うものだと説明しています。実費には印紙代や予納郵券、記録謄写費用、交通費などが含まれます。

近年は、初回相談無料や分割払いに対応する事務所もあります。ただし、「着手金なし」と表示されていても、報酬金や実費を含めると総額が高くなる場合があります。契約前には、着手金、報酬金、実費、日当、追加費用の有無を確認し、可能であれば見積書や委任契約書で費用の計算方法を明確にしておくと安心です。

まとめ

遺産分割で揉める主な要因は、土地や建物、自宅など現物で分けにくい財産がある場合に多いです。特に同居していた子が「居住を続けたい」と思っても、疎遠だった法定相続人が反対すれば、話し合いに時間がかかり、最終的に裁判や訴訟へ進むこともあります。離婚の経験があり前妻の子がいる、認知症の親の財産を使い込んだ疑いが出た、会社や事業承継が関連するなど、人間関係が複雑なほどストレスも高くなりがちです。

解決に必要な知識と手続

遺産相続では、民法で定められた相続順位や持分を前提に、全体の情報をしっかり整理することが必要です。司法統計を見ても、遺産額が多い場合だけでなく、相場がわからない不動産をめぐる争いは起こりやすい傾向があります。遺産分割協議書を作成するなら、戸籍、財産一覧、評価資料などの書類を用意し、効力のある内容にすることが望ましいです。

専門家を活用するという選択肢

自分に有利な主張を通りやすくするには、基礎知識だけでなく具体的な事例に強い弁護士や司法書士の支援を受ける方法があります。

伴法律事務所では、遺産分割や相続トラブルの専門家として、電話やLINE、メールでのご相談を無料にて受付しております。また、メールでは24時間、初回相談は60分無料でご相談が可能です。深刻な対立を回避するためにも、まずはお気軽にご相談いただきたいと思います。

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この記事の執筆者

弁護士 伴 広樹

経歴

神奈川県厚木市出身。1997年司法試験合格後、2000年に司法修習を修了(52期)し、弁護士登録。横浜市内の法律事務所に勤務後、2004年に伴法律事務所を開設。年間280件の相続の法律相談に対応している。
弁護士業務では①お客様の期待に沿う徹底した調査,②お客様が納得できる提案力,③お客様が安心して任せられる確実かつ迅速な処理の3つを心がけており、実際に業務に対しての評価も高い。

活動・公務など

・神奈川大学非常勤講師(2009年9月~2016年3月)
・明治大学リバティアカデミー(市民講座)講師(2015年~2016年)
・横浜弁護士会(現神奈川県弁護士会)常議員(2009年4月~2010年3月)
・一般社団法人神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会神奈川健生成年後見センター運営委員会委員(2015年8月~)
・セミナー講師としての活動 川崎市役所,東京地方税理士会保土ヶ谷支部,神奈川県宅地建物取引業協会横浜中央支部,神奈川青年司法書士協議会など各種団体におけるセミナー講師を担当

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