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遺産分割協議に成年後見人は必要?相続時の注意点と協議書の作成方法を解説

 

遺産分割協議に成年後見人は必要?相続時の注意点と協議書の作成方法を解説

相続人の中に認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な人がいる場合、遺産分割協議をそのまま進めることはできない可能性があります。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、協議の内容を理解して有効に同意できない相続人がいると、協議自体が無効になるおそれがあるためです。

このような場合に必要となるのが、成年後見人です。成年後見人は、判断能力が不十分な本人に代わって相続手続きに関与し、本人に不利益な遺産分割になっていないかを確認します。ただし、遺言書がある場合や法定相続分どおりに手続きを進める場合など、成年後見人を選任しなくても対応できるケースもあります。

この記事では、遺産分割協議に成年後見人が必要になるケース、成年後見人がいる場合の協議の進め方、遺産分割協議書を作成する際の注意点についてわかりやすく解説します。

相続で成年後見人が必要になるケース

相続で成年後見人が必要になる典型的なケースは、相続人の中に判断能力が不十分な人がおり、その人が遺産分割協議に自分で参加できない場合です。

遺産分割協議とは、相続人全員で「誰が、どの財産を、どの割合で取得するか」を決める話し合いです。協議を成立させるには、相続人全員の有効な合意が必要です。相続人のうち1人でも内容を理解して同意できない人がいると、遺産分割協議は無効となるおそれがあります。

そのため、認知症や知的障害、精神障害等により、相続財産の内容や分割方法を理解することが難しい相続人がいる場合には、その人の権利を守るため、成年後見制度の利用を検討する必要があります。

判断能力が不十分な相続人は遺産分割協議に単独で参加できない

遺産分割協議は、単なる家族間の話し合いではありません。相続財産をどのように分けるかを決める法律行為です。そのため、協議に参加する相続人には、少なくとも以下のような内容を理解できる判断能力が求められます。

たとえば、重度の認知症により、財産の内容や自分が相続人であることを理解できない状態であれば、本人が単独で遺産分割協議に参加することは難しいと考えられます。このような状態で、家族が「本人も納得しているはず」と考えて遺産分割協議書への署名・押印を進めても、後から協議の有効性が問題になるかもしれません。相続人全員が円満に合意しているように見えても、判断能力が不十分な相続人の権利が守られていなければ、相続手続きが止まるおそれがあります。

成年後見人なしで協議すると無効になるリスクがある

判断能力が不十分な相続人を含めたまま、成年後見人などの適切な支援者を選任せずに遺産分割協議を行うと、その協議が無効と判断されるリスクがあります。

たとえば、認知症の母に遺産分割協議書へ署名・押印してもらい、子どもたちだけで不動産を長男名義にしようとするケースを考えてみましょう。母が協議内容を理解できない状態であれば、形式的に署名や押印があっても、有効な同意があったとはいえない可能性を、ご理解いただけるでしょうか。

また、金融機関や法務局で手続きを進める際に、相続人の判断能力に疑義があると、追加資料の提出や成年後見人の選任を求められることもあります。特に、介護施設に入所している、診断書上で認知症とされている、意思確認が難しいといった事情がある場合には、手続き先から慎重に確認されることもあるかもしれません。

家族間では問題がないと思っていても、金融機関や登記手続きでは、本人の権利が守られているかを確認します。そのため、判断能力が不十分な相続人がいる場合には、早い段階で成年後見制度の利用が必要か確認することが重要です。

後見・保佐・補助で相続手続きに関与できる範囲が異なる

成年後見制度には、大きく分けて「後見」「保佐」「補助」の3種類があります。どの制度を利用するかは、本人の判断能力の程度によって異なります。

後見は、判断能力を欠く状態が通常である人を支援する制度です。重度の認知症などにより、日常的に法律行為を判断することが難しい場合に利用されます。成年後見人は、本人に代わって多くの法律行為を行う権限を持ちます。

保佐は、判断能力が著しく不十分な人を支援する制度です。日常生活の簡単なことは判断できても、不動産の処分や借入れ、相続の承認・放棄など重要な法律行為について支援が必要な場合に利用されます。

補助は、判断能力が不十分ではあるものの、保佐よりも軽い状態の人を支援する制度です。本人の同意を前提に、必要な範囲で補助人に代理権や同意権を与えます。

相続手続きでは、後見人が本人を代理して遺産分割協議に関与することがあります。一方、保佐人や補助人の場合は、遺産分割協議に関する代理権や同意権が付与されているかを確認することが必要です。すでに保佐人や補助人がいる場合でも、その人が当然に遺産分割協議を代理できるとは限らないため注意しましょう。

成年後見人が不要になる可能性があるケース

認知症の相続人がいる場合でも、常に成年後見人が必要になるわけではありません。相続手続きの内容によっては、遺産分割協議を行わずに進められる場合があるためです。

ただし、「成年後見人は不要」と安易に判断するのは危険です。相続財産の内容、遺言書の有効性、金融機関の対応、相続人同士の関係によって結論が変わるため、実際には専門家に確認しながら進めることが望ましいでしょう。

有効な遺言書があれば遺産分割協議が不要になることがある

被相続人が有効な遺言書を残している場合、原則として遺言書の内容に従って相続手続きを進めます。この場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がないこともあります。

たとえば、「自宅不動産は長男に相続させる」「預貯金は妻に相続させる」といった内容の遺言書があり、その遺言書が有効であれば、改めて相続人全員で分け方を話し合わずに手続きを進められるかもしれません。

ただし、遺言書の形式に不備がある場合、内容があいまいな場合、遺留分の問題がある場合、相続財産の一部しか記載されていない場合などは、追加で協議や手続きが必要になることもあり、注意が必要です。

また、預貯金の解約や有価証券の名義変更では、金融機関ごとに必要書類や確認事項が異なります。判断能力が不十分な相続人が関係する場合、遺言書があっても成年後見人の関与が必要になる可能性は否定できず、専門家への相談をおすすめします。

法定相続分どおりの相続登記なら進められる場合がある

不動産については、遺産分割協議を行わず、法定相続分どおりに共有名義で相続登記をする方法もあります。

たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1です。この割合どおりに共有名義で登記するのであれば、遺産分割協議を行わずに進められる可能性もあります。

ただし、法定相続分どおりの共有登記には注意が必要です。不動産が共有状態になると、売却や賃貸、建て替えなどの場面で共有者全員の協力が必要になり、将来的なトラブルにつながるおそれがあるからです。その後に相続が発生すると共有者が増え、権利関係が複雑になることもあります。

そのため、法定相続分どおりに登記できるからといって、必ずしも最善の方法とは限りません。目先の手続きを進めるためだけに共有状態にすると、将来の管理や処分で困る可能性があるため、慎重な判断が必要です。

預貯金や有価証券がある場合は後見人が必要になりやすい

相続財産に預貯金や有価証券が含まれる場合、成年後見人が必要になる事例が多い傾向にあります。

金融機関で預貯金の解約や払い戻しを行う際には、相続人全員の署名・押印、印鑑証明書、遺産分割協議書などを求められることがあり、もしも相続人の中に判断能力が不十分な人がいる場合、その人が有効に手続きへ同意できるかが問題になります。

また、株式や投資信託などの有価証券についても、名義変更や売却、換金の手続きで本人の意思確認が必要になることがあります。判断能力が不十分な相続人がいると、証券会社側が手続きを進められず、成年後見人の選任を求める場合もあるかもしれません。

特に、相続税の納税資金を預貯金から準備したい場合や、生活費・介護費として早めに資金を確保したい場合には、手続きが止まると大きな支障が出ます。預貯金や有価証券がある相続では、成年後見人の必要性を早めに確認することが大切です。

成年後見人が遺産相続の手続でできること

成年後見人は、判断能力が不十分な本人の財産や権利を守るために選任され、相続手続きでも、本人の代理人として遺産分割協議や各種手続きに関与することがあります。

ただし、成年後見人は本人の代わりに何でも自由に決められるわけではありません。あくまで本人の利益を守る立場で行動するため、家族の希望や相続人全体の都合だけで判断することはできません。

遺産分割協議への参加と遺産分割協議書への対応

成年後見人の重要な役割の一つは、本人に代わって遺産分割協議に関与することです。
遺産分割協議では、以下のような相続財産を確認したうえで、誰がどの財産を取得するのかを決めます。

財産の種類

具体例

不動産

自宅、土地、賃貸物件など

金融資産

預貯金、有価証券、投資信託など

動産

車、貴金属、家財など

マイナスの財産

借金、未払い金、保証債務など

成年後見人は、本人の法定相続分、生活状況、今後必要になる介護費・医療費などを踏まえ、本人に不利益がないかを慎重に確認します。

協議がまとまった場合は、遺産分割協議書の内容を確認し、必要に応じて署名・押印を行います。ただし、本人に著しく不利な内容や、法定相続分を大きく下回る内容には同意できない可能性があるため注意が必要です。

たとえば、「認知症の母は施設に入っているから財産はいらないだろう」と考え、子どもたちだけで財産を分けようとする内容は、本人の利益を害すると判断されるおそれがあります。成年後見人は本人の権利を守る立場から、このような協議内容には慎重に対応します。

相続放棄や限定承認の判断と手続き

被相続人に借金が多い場合、相続放棄や限定承認を検討することも有効な選択肢です。成年後見人は、本人の利益を考慮したうえで、これらの手続きに関与することがあります。

手続き

内容

向いているケース

相続放棄

財産も借金も引き継がない手続き

借金が財産を上回る可能性が高い場合

限定承認

相続で得た財産の範囲内で借金を引き継ぐ手続き

プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか不明な場合

相続放棄や限定承認には期限があります。原則として、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。

判断能力が不十分な相続人がいる場合、成年後見人の選任に時間がかかると、この期限に影響するおそれがあります。そのため、借金がある相続では、財産調査と成年後見制度の必要性を早めに確認することが大切です。

期限が迫っている場合は、弁護士などの専門家に相談し、熟慮期間の伸長申立てを含めて対応を検討しましょう。

相続登記・預貯金解約・相続税申告への関与

成年後見人は、相続登記、預貯金解約、有価証券の名義変更、相続税申告などにも関与する場合があります。

手続き

成年後見人の関与

相続登記

遺産分割協議の内容確認や必要書類の準備に関与する

預貯金解約

金融機関で本人の代理人として手続きを進める

有価証券の名義変更

証券会社での手続きや必要書類の確認に関わる

相続税申告

税理士と連携し、本人の財産情報や書類確認に協力する

不動産を相続する場合には、相続登記が必要です。遺産分割協議によって不動産の取得者を決める場合、成年後見人が本人の代理人として協議に関わり、その内容を確認します。登記申請自体は司法書士に依頼するケースも多いですが、成年後見人も手続きの進行に関与することがあります。

預貯金の解約では、金融機関に対して相続関係を示す戸籍、遺産分割協議書、印鑑証明書などを提出するのが一般的です。本人が判断能力を欠いている場合は、成年後見人が代理人として対応します。

相続税申告が必要な場合は、税理士と連携しながら財産内容を確認します。成年後見人は本人の財産を管理する立場にあるため、申告に必要な情報提供や書類確認に関わることもあります。

このように、成年後見人は相続手続きのさまざまな場面に関与します。ただし、登記は司法書士、税務は税理士、紛争対応は弁護士というように、専門家ごとに対応できる分野は異なります。複雑な相続では、必要に応じて複数の専門家と連携しながら進めることが重要です。

成年後見人がいる遺産分割協議の進め方

成年後見人がいる遺産分割協議では、家族だけで自由に財産の分け方を決めることはできません。成年後見人は、本人の利益を守る立場にあるため、本人に不利益な内容には同意しにくいからです。
特に、以下のような内容は問題になりやすいため注意が必要です。

問題になりやすい内容

注意点

本人の法定相続分を大きく下回る分割

本人の権利を害する可能性がある

本人が使いにくい財産だけを取得する分割

生活費・介護費の確保に支障が出るおそれがある

後見人自身の取得分が増える分割

本人との利益相反が問題になることがある

原則として本人の法定相続分を確保する必要がある

成年後見人が遺産分割協議に関与する場合、原則として本人の法定相続分を確保する方向で協議を進めます。

たとえば、父が亡くなり、相続人が母と子ども2人の場合、母の法定相続分は2分の1です。母が認知症で成年後見人が選任されている場合、成年後見人は母の権利を守る立場にあります。そのため、母がほとんど財産を取得しない遺産分割案には、簡単には同意できません。
家族としては、「母は施設に入っているから不動産はいらない」「長男が家を守るから全部相続した方がよい」と考えることもあるでしょう。しかし、成年後見人の判断基準は、家族全体の都合ではなく本人の利益です。

もっとも、すべてのケースで機械的に法定相続分どおりに分ける必要があるわけではありません。本人の生活状況や財産内容によっては、柔軟な分割が検討されることもあります。ただし、本人の権利を不当に減らす内容は認められにくいと考えておきましょう。

本人に不利益な分割内容は認められにくい

成年後見人が関与する遺産分割では、本人に不利益な内容になっていないかが重視されます。

たとえば、本人が不動産を取得する代わりに現金をほとんど受け取らない内容には注意が必要です。不動産は価値がある財産でも、すぐに生活費や介護費として使えるわけではありません。本人が施設に入所しており、今後も介護費や医療費が必要になる場合には、現預金を確保することが重要です。

また、管理が難しい不動産や売却しにくい土地を本人に取得させる内容も、実質的に本人の負担になる可能性があります。固定資産税や管理費が発生する一方で、本人がその不動産を利用できない場合は慎重な検討が必要です。

遺産分割では、「金額上は法定相続分を満たしているか」だけでなく、「本人の生活に役立つ財産を取得できているか」も重要になります。成年後見人は、本人の今後の生活や財産管理のしやすさを踏まえて、協議内容を確認します。

後見人と本人がともに相続人の場合は利益相反に注意する

親族が成年後見人になっている場合、相続で利益相反が生じることがあります。

利益相反とは、一方の利益が他方の不利益になる関係をいいます。たとえば、長男が母の成年後見人になっており、父が亡くなったケースでは、相続人は母と長男を含む子どもたちです。長男は、自分自身の相続人としての立場と、母の成年後見人としての立場を同時に持つことになります。

この状態で長男が母を代理して遺産分割協議を行うと、長男の取得分を増やすことで母の取得分が減る可能性があります。つまり、長男と母の利益が対立する関係です。

このような場合には、成年後見人がそのまま本人を代理できず、後見監督人がいれば後見監督人が本人を代理します。後見監督人がいない場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。

親族後見人がいるからといって、すべての相続手続きをそのまま代理できるわけではありません。利益相反の有無は判断が難しいことも多いため、親族後見人が相続人にもなっている場合には、早めに弁護士や司法書士へ相談しましょう。

成年後見人を選任する手続き・期間・費用

成年後見人を選任するには、家庭裁判所への申立てが必要です。家族だけで「この人を後見人にする」と決めることはできず、最終的には家庭裁判所が本人の利益を基準に判断します。
相続手続きで成年後見人が必要になる場合は、選任までに一定の時間がかかることを前提に動く必要があります。相続放棄や相続税申告には期限があるため、対応が遅れると不利益が生じる可能性があります。

項目

内容

申立て先

本人の住所地を管轄する家庭裁判所

申立てできる人

本人、配偶者、四親等内の親族など

主な必要書類

診断書、戸籍謄本、住民票、財産資料、収支予定表など

期間の目安

2〜4か月前後かかることがある

報酬

原則として本人の財産から支払われる

申立て先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所

成年後見開始の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。

ここでいう本人とは、判断能力が不十分で後見を受ける人のことです。相続の被相続人ではありません。たとえば、父が亡くなり、母に成年後見人を付ける必要がある場合、申立て先は母の住所地を管轄する家庭裁判所です。

本人が施設や病院に入っている場合、住民票上の住所と実際の居所が異なることがあります。どこの家庭裁判所に申し立てるべきか迷う場合は、事前に確認しておくと安心です。

申立てができる人は、本人、配偶者、四親等内の親族などです。相続人である子どもが、認知症の親のために申立てを行うケースもあります。

診断書・戸籍謄本・財産資料などの必要書類を準備する

成年後見開始の申立てには、本人の判断能力や財産状況を確認するための書類が必要です。主な書類は以下のとおりです。

書類の種類

具体例

本人確認・親族関係の資料

本人の戸籍謄本、住民票または戸籍附票、親族関係図など

判断能力に関する資料

医師の診断書、本人情報シートなど

財産に関する資料

預貯金通帳、残高証明書、不動産登記事項証明書、有価証券資料など

収支に関する資料

年金通知書、介護費用、施設利用料、収支予定表など

候補者に関する資料

後見人候補者事情説明書など

特に重要なのが、医師の診断書です。本人の判断能力の程度を確認する資料となり、成年後見制度を利用すべきか判断する基礎になります。

また、本人の財産内容を示す資料も欠かせません。預貯金、不動産、保険、有価証券、年金収入、介護費用などを整理しておく必要があります。相続手続きと並行して資料を集めるのは負担が大きいため、早めに準備を始めましょう。

申立てから選任までは2〜4か月前後かかることが多い

成年後見人の選任には一定の期間がかかります。申立てをすれば、すぐに後見人が決まるわけではありません。

家庭裁判所は、申立書、診断書、財産資料などを確認し、必要に応じて本人、親族、後見人候補者から事情を聞きます。場合によっては、本人の判断能力について鑑定が行われることもあります。

一般的には、申立てから選任までは2〜4か月前後です。ただし、事案の内容、書類の不備、親族間の対立、鑑定の有無などによって、さらに時間がかかる場合もあります。
相続手続きでは、期限との関係が重要です。

手続き

期限の目安

相続放棄・限定承認

原則として相続開始を知った時から3か月以内

相続税申告

原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内

成年後見人の選任を待っている間に期限が迫ることもあるため、判断能力に不安がある相続人がいる場合は、早めに専門家へ相談しましょう。

成年後見人の報酬は本人の財産から支払われる

弁護士や司法書士などの専門職が成年後見人に選任された場合、報酬が発生します。報酬額は、本人の財産額や後見事務の内容などを踏まえて、家庭裁判所が判断します。

成年後見人の報酬は、原則として本人の財産から支払われます。家族が個人的に負担するものではありませんが、本人の財産が減ることにはなるため、申立て前に制度の仕組みを理解しておくことが大切です。

親族が成年後見人になった場合でも、家庭裁判所に報酬付与の申立てを行うことで報酬が認められることがあります。一方で、親族後見人だから必ず無報酬、専門職後見人だから必ず高額と決まっているわけではありません。

また、成年後見人の業務は相続手続きだけで終わるとは限りません。本人の財産管理、収支管理、介護施設との契約、医療費の支払いなど、継続的な事務が発生します。そのため、報酬も継続して発生する可能性があります。

成年後見人を立てる前に知っておくべき注意点

成年後見制度は、判断能力が不十分な人を守るための制度です。しかし、「相続手続きを進めたい」という理由だけで安易に申し立てると、思わぬ負担や制約が生じることがあります。
特に、以下の点には注意が必要です。

注意点

内容

親族が選ばれるとは限らない

家庭裁判所が本人の利益を基準に判断する

相続後も制度が続く

原則として本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続く

財産を自由に使えない

本人の利益にならない支出や贈与は認められにくい

親族が必ず成年後見人に選ばれるとは限らない

成年後見開始の申立てでは、親族を後見人候補者として記載できます。しかし、候補者が必ず選任されるわけではありません。

家庭裁判所は、本人の利益を基準に成年後見人を選任します。親族間で対立がある場合、本人の財産管理が複雑な場合、利益相反の可能性がある場合などには、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選ばれることもあります。

また、親族が後見人になった場合でも、家庭裁判所への報告や財産管理の義務が生じます。預貯金の出入りを記録し、本人のために使った支出を説明できるようにしておかなければなりません。

一度選任されると相続手続き後も原則として続く

成年後見制度は、相続手続きのためだけに一時的に使える制度ではありません。一度成年後見人が選任されると、原則として本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続きます。

つまり、遺産分割協議が終わっても、後見が自動的に終了するわけではありません。後見が続く間、成年後見人は本人の財産を管理し、必要に応じて家庭裁判所へ報告します。

専門職後見人が選任されている場合には、報酬も継続的に発生する可能性があります。報酬額は法律で一律に決まっているわけではなく、家庭裁判所が本人の財産や後見事務の内容などを踏まえて判断します。

本人の財産を自由に使えず相続税対策も制限される

成年後見人が選任されると、本人の財産は本人の利益のために管理されます。家族のため、将来の相続人のため、相続税対策のためといった理由だけで、本人の財産を自由に使うことはできません。

たとえば、相続税対策として子どもや孫へ生前贈与をしたい場合でも、本人の利益にならない贈与は認められにくいです。不動産を売却する場合も、本人の生活費や介護費を確保する必要性などが重視されます。

本人名義の預貯金を家族の生活費に充てる、相続人の都合で不動産を処分する、親族へ資金を移すといった行為も問題になる可能性があります。成年後見制度は本人保護を目的とする制度であり、家族全体の節税や財産移転のための制度ではありません。

成年後見人が必要な相続は専門家へ相談すべき理由

成年後見人が関係する相続は、通常の相続よりも複雑になりやすいです。判断能力の問題、遺産分割協議の有効性、法定相続分の確保、利益相反、家庭裁判所への申立て、相続税申告など、複数の論点が同時に発生します。
相談先は、問題の内容によって異なります。

相談内容

主な相談先

遺産分割でもめている

弁護士

相続登記や戸籍収集を進めたい

司法書士

相続税申告や納税資金を確認したい

税理士

成年後見申立ての書類を準備したい

弁護士・司法書士

遺産分割で揉めそうな場合は弁護士への相談が重要

相続人同士で財産の分け方をめぐって対立している場合は、弁護士への相談が重要です。

成年後見人が関係する相続では、本人の法定相続分を確保する必要があるため、家族の希望どおりに分けられないことがあります。たとえば、「長男が家を継ぐために不動産をすべて取得したい」「認知症の母には財産を渡さず、子どもたちで分けたい」といった内容は、本人の利益を害すると判断される可能性があります。

また、親族後見人が相続人でもある場合には、利益相反が問題になります。後見監督人や特別代理人が必要になるか、どのような遺産分割案なら本人の利益を害しないかなど、法律的な判断が必要です。

遺産分割協議で合意できない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停に進むこともあります。調停や紛争対応は弁護士の専門領域です。

相続登記や書類収集は司法書士に相談できる

不動産の相続登記、戸籍収集、相続関係説明図の作成、登記申請書類の準備などは、司法書士に相談できます。

相続登記では、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、住民票、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書など、多くの書類が必要です。相続人の中に認知症の人がいる場合には、成年後見人に関する書類が必要になることもあります。

ただし、相続人間で争いがある場合や、誰がどの財産を取得するかについて代理交渉が必要な場合は、司法書士では対応できないことがあります。紛争性がある場合は、弁護士に相談しましょう。

相続税申告が必要な場合は税理士との連携が必要

相続財産が一定額を超える場合には、相続税申告が必要です。相続税の申告期限は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。

成年後見人の選任に時間がかかると、申告準備の期間が短くなる可能性があります。相続税申告では、不動産評価、預貯金残高、有価証券、生命保険金、生前贈与、債務、葬儀費用など、多くの情報を整理しなければなりません。

遺産分割がまとまっていない場合でも、期限内に申告が必要になることがあります。申告が遅れると、加算税や延滞税が発生する可能性があるため、税理士に早めに相談し、未分割申告やその後の手続きも含めて確認しておきましょう。

成年後見人が必要な相続では、登記、預貯金解約、納税、遺産分割が連動して遅れることがあります。期限がある手続きから優先順位をつけ、早めに専門家へ相談することが大切です。

まとめ

法定相続人の中に認知症などで判断能力が十分でない人がいる場合、遺産分割協議をそのまま行ってもらうことは難しいです。この時点では、家庭裁判所の審判により成年後見人を選任し、本人を法的にサポートする必要があります。対象となる遺産には、預貯金だけでなく、土地や建物、事業承継に関わる財産も含まれます。

手続きの流れと注意点

成年後見人を選任する流れは、申立て、裁判所での審理、審判、後見人選任の順に進みます。後見人は本人の利益を守る立場にあるため、他の相続人の希望だけで分割案を決めることはできません。たとえば、本人の法定相続分を大きく下回る案は、許可されにくい点がポイントです。必要に応じて、遺産分割協議書の作成や内容確認も受けます。

生前対策との違い

相続発生後に使う法定後見と、生前に契約しておく任意後見には違いがあります。また、家族信託を活用すれば、将来の財産管理や遺産承継の悩みを軽減できる場合もあります。ただし、信託や任意後見は万能ではないため、相続対策に強い専門家へ相談することが大切です。

相談先とサポート内容

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この記事の執筆者

弁護士 伴 広樹

経歴

神奈川県厚木市出身。1997年司法試験合格後、2000年に司法修習を修了(52期)し、弁護士登録。横浜市内の法律事務所に勤務後、2004年に伴法律事務所を開設。年間280件の相続の法律相談に対応している。
弁護士業務では①お客様の期待に沿う徹底した調査,②お客様が納得できる提案力,③お客様が安心して任せられる確実かつ迅速な処理の3つを心がけており、実際に業務に対しての評価も高い。

活動・公務など

・神奈川大学非常勤講師(2009年9月~2016年3月)
・明治大学リバティアカデミー(市民講座)講師(2015年~2016年)
・横浜弁護士会(現神奈川県弁護士会)常議員(2009年4月~2010年3月)
・一般社団法人神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会神奈川健生成年後見センター運営委員会委員(2015年8月~)
・セミナー講師としての活動 川崎市役所,東京地方税理士会保土ヶ谷支部,神奈川県宅地建物取引業協会横浜中央支部,神奈川青年司法書士協議会など各種団体におけるセミナー講師を担当

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