遺産分割の調停前置とは?相続手続きと審判までの流れを弁護士が解説
遺産分割の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の手続きを利用して解決を目指すことがあります。その際に気になるのが、「いきなり審判を申し立てられるのか」「まず調停をしなければならないのか」という点です。
調停前置とは、裁判等の手続に進む前に、まず調停で話し合いによる解決を試みる仕組みをいいます。遺産分割では、離婚事件のように厳密な意味で調停前置が求められるわけではありません。ただし、実務上は調停から始まることが多く、審判を申し立てた場合でも、家庭裁判所の判断で調停に付されることがあります。
この記事では、遺産分割における調停前置の考え方、相続人同士の協議から調停・審判へ進む流れ、手続きを進める際の注意点について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
遺産分割に調停前置主義はあるのか
遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所での手続きを検討する際、「いきなり審判になるのか」「まずは調停から始めるべきなのか」と不安を感じる方は少なくありません。法的な手続きと聞くと身構えてしまいがちですが、まずは全体の仕組みを正しく理解することが大切です。
調停前置主義とは何か?概要を解説
調停前置主義(ちょうていぜんちしゅぎ)とは、いきなり訴訟などの裁判手続きに進むのではなく、まず調停で話し合いによる解決を試みる仕組みのことです。
代表的な例は、離婚事件などの家庭に関する紛争です。家族や親族間の問題は、勝ち負けを決めるだけでは解決しにくいことも多いため、まずは調停委員を介して話し合う場が用意されています。
調停は、裁判官が一方的に結論を出す手続きではありません。調停委員が当事者双方の言い分を聞き、必要に応じて資料を確認しながら、合意による解決を目指します。直接の話し合いでは感情的になりやすい場合でも、第三者が入ることで論点を整理しやすくなる点が特徴です。
遺産分割は調停前置主義の対象外?離婚との違い
結論からいうと、遺産分割は、離婚事件のような厳密な意味での調停前置主義の対象ではありません。遺産分割について相続人同士の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割調停または審判の手続を利用することができます。
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手続き |
離婚事件 |
遺産分割 |
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最初の手続き |
原則として調停から始める |
調停または審判を利用できる |
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調停が不成立の場合 |
訴訟などを検討する |
自動的に審判手続が始まる |
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判断する内容 |
離婚原因や親権、財産分与など |
遺産の内容、相続分、分割方法など |
「いきなり審判を申し立てられるのか」という疑問に対しては、制度上は可能です。審判とは、裁判官が当事者の主張や提出資料、遺産の種類や性質などを考慮し、遺産の分け方を判断する手続きです。
なぜ調停から始まるのか?付調停の仕組み
制度上は審判から申し立てることもできますが、実務上は調停から進めるケースが多くあります。これは、遺産分割が親族間の話し合いで解決しやすい手続きであり、裁判所もまずは合意形成を試みることがあるためです。
審判として申し立てた場合でも、裁判官が「まず話し合いによる解決を図る方がよい」と判断すれば、調停による解決を試みることがあります。これが、いわゆる付調停(ふちょうてい)の考え方です。
調停は、争いを深めるための場ではなく、相続人同士の主張を整理し、合意できる分割方法を探るための手続きです。調停で合意できれば、審判に進まず解決できる可能性があります。一方で、調停が不成立となった場合は審判手続に移り、裁判官が法的な観点から判断する流れになります。
調停の手続きと費用・期間の目安
遺産分割調停を検討する際は、「何から始めればよいのか」「どれくらいの費用や時間がかかるのか」が気になるところです。ここでは、申立てに必要な書類、管轄裁判所の考え方、費用と期間の目安を整理します。
申立てに必要な書類と管轄裁判所の決め方
遺産分割調停を申し立てる際は、事前準備を丁寧に行うことで、その後の手続きが進めやすくなります。家庭裁判所へ提出する主な書類は、次のとおりです。
必要書類
- 申立書・当事者目録・遺産目録など
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、残高証明書など
- 遺言書がある場合は、公正証書遺言、自筆証書遺言の写し、検認済証明書など
必要書類は、相続関係や遺産の内容、裁判所の運用によって異なる場合があります。東京家庭裁判所も、申立てに必要な書類について、説明資料や添付資料を確認してそろえるよう案内しています。
書類がそろったら、管轄となる家庭裁判所へ申し立てます。管轄は、原則として「相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所」または「当事者が合意で定める家庭裁判所」です。相続人が複数いる場合は、どの相続人を相手方とするか、どの裁判所へ申し立てるかを事前に確認しておくとよいでしょう。
申立費用と手続きにかかる時間的負担
遺産分割調停の申立て自体にかかる費用は、比較的高額ではありません。主な費用は次のとおりです。
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費用項目 |
目安 |
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収入印紙 |
被相続人1人につき1,200円分 |
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連絡用郵便切手 |
裁判所によって異なります |
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書類取得費用 |
戸籍謄本、住民票、登記事項証明書、固定資産評価証明書などの取得実費 |
ただし、申立費用そのものよりも、時間的・精神的な負担が大きくなるかもしれません。調停期日は平日の日中に開かれることが多く、1回あたりの所要時間は事案によって異なります。期日はおおむね1〜2か月に1回程度のペースで進むことが多く、解決まで数か月から1年以上かかるケースもあります。
そのため、仕事を休む調整や、資料の準備、相手方の主張への対応なども見込んでおきましょう。争点が多い場合や不動産評価、特別受益、寄与分などが問題になる場合は、早めに弁護士へ相談し、必要な資料と主張を整理しておくと安心です。
調停不成立後の審判への移行
話し合いを重ねても、相続人同士でどうしても合意できないことがあります。その場合、遺産分割調停は不成立となり、手続きは「審判」へ移行します。
調停から審判へ移行する手続きの流れ
調停で合意に至らない場合、調停は不成立として終了し、自動的に審判手続が始まります。原則として、改めて審判の申立てを行う必要はありません。
一般的な流れは、次のとおりです。
- 調停不成立:話し合いで合意できず、調停が終了する
- 審判手続の開始:自動的に審判手続へ移行する
- 主張・資料の確認:裁判官が、調停で提出された資料や主張を確認する
- 追加資料の提出:必要に応じて、当事者が追加の証拠や説明資料を提出する
- 審問など:事案により、裁判官が当事者から直接事情を聴くことがある
- 審判:裁判官が遺産の分け方について判断する
ここで知っておきたいのは、調停段階で提出した主張書面や証拠が、審判でも重要な判断材料になることです。審判を見据えるなら、調停の段階から一貫性のある主張と客観的な資料の準備を心がけましょう。
審判で重視される資料と法的根拠
審判に移行すると、調停のように合意を目指す話し合いではなく、裁判官が当事者の主張や提出資料をもとに、法的な観点から分割方法を判断します。そのため、「相手の態度が許せない」といった感情的な主張だけでは、判断材料になりにくいといえます。
裁判官は、主に次のような資料や法的根拠を確認します。
- 法定相続分:民法で定められた基本的な取り分
- 遺産目録:預貯金残高証明書、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書など
- 特別受益の資料:生前贈与や住宅資金援助などを裏付ける送金記録、契約書、通帳履歴など
- 寄与分の資料:介護記録、領収書、診断書、介護認定資料など、財産の維持・増加への貢献を示す資料
特に特別受益や寄与分は、客観的な資料がないと認められにくい傾向があります。どの資料を準備すべきか判断に迷う場合は、早い段階で弁護士に相談し、主張と証拠を整理しておくと安心です。
調停を円滑に進めるための準備と注意点
遺産分割調停を円滑に進めるには、事前の準備と冷静な対応が重要です。調停は、感情的な対立をぶつける場ではなく、相続人それぞれの主張や資料を整理し、合意できる分割方法を探る手続きです。ここでは、調停委員に伝わりやすい主張の整理方法と、相手方が非協力的な場合の対処法を解説します。
調停委員に伝わりやすい主張の整理と避けたい言動
調停委員は中立的な立場で双方の意見を聞きます。そのため、感情的な不満だけを述べるのではなく、客観的な事実と資料を示すことが大切です。
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伝わりやすい主張 |
避けたい言動 |
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通帳や登記事項証明書などを時系列で整理して提示する |
根拠のない決めつけや人格攻撃をする |
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希望する分割案と、その理由を明確に伝える |
記憶や感情だけをもとに一方的な不満を述べる |
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領収書、介護記録、査定書などの客観的資料を提出する |
調停委員を無理に味方にしようとする |
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譲れる点と譲れない点を整理しておく |
相手方の発言をすべて否定し、話し合いを拒む |
調停委員は、どちらか一方の味方というわけではありません。自分に有利な印象を与えようとするよりも、事実関係を分かりやすく説明し、資料で裏付ける姿勢が重要です。たとえば、不動産の評価で争っている場合は査定書や固定資産評価証明書、介護への貢献を主張する場合は介護記録や領収書などを用意しておくと、論点を整理しやすくなります。
相手の欠席や財産隠しが疑われる場合の対処法
相手方が調停に出席しない、資料を出さない、財産を開示しないといった場合、当事者だけで対応するのは難しくなることがあります。そのようなときは、状況に応じて次のような方法を検討します。
- 相手が調停を欠席し続ける場合
家庭裁判所から出席を促されることがありますが、それでも話し合いが進まない場合は、調停が不成立となり、審判手続へ移行する可能性があります。欠席した相手の主張が当然に排除されるわけではありませんが、資料提出や意見を述べる機会を逃すことになります。 - 財産隠しが疑われる場合
まずは、預貯金通帳、残高証明書、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書など、手元で確認できる資料を集めます。そのうえで、必要に応じて弁護士会照会や裁判所の調査嘱託などを検討します。ただし、これらの手続きが常に利用できるわけではなく、照会先や必要性、事案の内容によって可否が変わります。 - 使途不明金がある場合
取引履歴を確認し、引き出し時期、金額、親の判断能力や生活状況、医療費・介護費などの支出との関係を整理します。説明がつかない支出がある場合は、相手方へ使途の説明を求め、必要に応じて返還請求の可否を検討します。
調停が行き詰まった場合でも、感情的に相手を責めるだけでは解決につながりにくいです。資料を整理し、どの財産が問題なのか、どの点で説明が不足しているのかを明確にすることが大切です。財産調査や証拠整理に不安がある場合は、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。
専門家へ相談するメリット
調停や審判に一人で対応するのは、精神的にも手続き的にも大きな負担になるかもしれません。状況に応じて弁護士や司法書士などの専門家を頼ることで、必要な手続きや主張を整理しやすくなるはずです。
調停対応を弁護士に相談すべきケース
次のような状況にある場合は、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
- 特別受益や寄与分の主張で意見が大きく対立している
- 相手方が遺産を開示せず、財産隠しや使途不明金が疑われる
- 親族間の感情的なもつれが激しく、直接やり取りするのが難しい
- 調停の呼出状が届き、主張や資料の整理に不安がある
弁護士は代理人として調停に出席し、法的な根拠に基づいて主張や資料を整理することができます。相手方とのやり取りを任せられるため、精神的な負担を軽減しやすい点もメリットです。ただし、依頼すれば必ず希望どおりの結果になるわけではありません。見通しやリスクを確認したうえで、現実的な解決策を検討することが大切です。
戸籍収集・財産資料を整理する負担を減らす
調停の申立てには、被相続人の出生から死亡までの戸籍や、相続人を確認する戸籍、財産に関する資料などが必要になります。これらの書類の収集は、想像以上に手間がかかることがあります。
- 平日の日中に役所や金融機関へ問い合わせる必要がある
- 遠方の自治体へ郵送で戸籍を請求しなければならない場合がある
- 不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、名寄帳など、必要書類の判断に迷うことがある
弁護士や司法書士は、受任した業務に必要な範囲で、職務上請求により戸籍謄本などを取得できる場合がほとんどです。ただし、どの書類まで取得できるかは依頼内容や専門家の業務範囲によって異なります。必要書類に不備があると手続きが遅れることもあるため、早めに相談して準備を進めると安心です。
調停成立後の相続登記まで見据えた専門家の選び方
遺産分割の手続きは、調停で合意して終わりとは限りません。不動産が含まれる場合は、調停成立後に相続登記まで進める必要があります。
専門家ごとの主な役割は、次のように整理できます。
- 弁護士:相続人間の交渉、調停・審判対応、法的主張の整理
- 司法書士:相続登記、登記に必要な書類作成、登記申請の代理
2024年4月から相続登記は義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請が必要です。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。弁護士と司法書士が連携している事務所や、登記まで見据えて相談できる窓口を選ぶと、調停後の手続きも進めやすくなります。
まとめ
遺産相続で相続人同士の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の遺産分割調停や審判を利用することがあります。遺産分割は、離婚事件のように必ず調停を先に行わなければならない「調停前置主義」の典型例ではありません。ただし、実際には調停で合意形成を目指し、不成立となった時に審判へ移行する流れです。調停が成立すると、合意内容は調停調書として作成されます。
遺言や相続放棄がある場合の注意点
遺言がある場合でも、内容によっては遺留分が問題になることがあります。また、借金などの負の相続財産が多い場合は、相続放棄を検討することもあります。相続放棄は一定期間内に家庭裁判所へ申述する必要があり、遺産分割協議の中で「放棄する」と伝えるだけでは法律上の相続放棄にはなりません。各相続人の立場や生前の贈与、信託の有無なども踏まえ、正確な知識をもとに対応することが大切です。
調停・審判で確認されるポイント
調停では、各相続人の主張や遺産の内容、不動産の売却の可否、相続税への影響などを整理していきます。通常、合意に至らないときは審判へ移行し、裁判官が法的な観点から判断を下します。審判の結果に不服がある場合には、所定の手続きに従って不服申立てを検討することになるでしょう。一方で、遺産の範囲や遺言の効力などの前提問題に争いがあるケースでは、別途民事訴訟の提起が必要となることもあります。
専門家へ相談するメリット
遺産分割は、法律、相続税、不動産、遺留分など複数の分野が関係することがあります。調停調書が確定すれば、内容によっては強制執行の根拠になる場合もあるため、安易に合意するのは避けたいところです。経験のある弁護士へ相談すれば、他の相続人との交渉や資料作成、調停・審判の進め方について助言を受けられます。
伴法律事務所では、遺産分割や相続トラブルの専門家として、電話やLINE、メールでのご相談を無料にて受付しております。メールは24時間受付、また初回相談は60分無料とさせていただいておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の執筆者

弁護士 伴 広樹
経歴
神奈川県厚木市出身。1997年司法試験合格後、2000年に司法修習を修了(52期)し、弁護士登録。横浜市内の法律事務所に勤務後、2004年に伴法律事務所を開設。年間280件の相続の法律相談に対応している。
弁護士業務では①お客様の期待に沿う徹底した調査,②お客様が納得できる提案力,③お客様が安心して任せられる確実かつ迅速な処理の3つを心がけており、実際に業務に対しての評価も高い。
活動・公務など
・神奈川大学非常勤講師(2009年9月~2016年3月)
・明治大学リバティアカデミー(市民講座)講師(2015年~2016年)
・横浜弁護士会(現神奈川県弁護士会)常議員(2009年4月~2010年3月)
・一般社団法人神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会神奈川健生成年後見センター運営委員会委員(2015年8月~)
・セミナー講師としての活動 川崎市役所,東京地方税理士会保土ヶ谷支部,神奈川県宅地建物取引業協会横浜中央支部,神奈川青年司法書士協議会など各種団体におけるセミナー講師を担当





