Q 認知症の父の公正証書遺言を無効にできますか?

A 無効にできる場合があります。

 

◇公正証書遺言が無効になる場合

 

 遺言の方式にはいくつかの種類がありますが、一般には自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがよく利用されます。

 

 公正証書遺言は、公証役場の公証人に依頼して作成してもらう遺言です。公証人が遺言者の意思を確認したうえで作成し、かつ2人以上の証人の立ち会いのもと作成されるので、自筆で作成する遺言に比べて、本人の意思により作成されたという推定が強く働き、一般に無効とされることは少ないです。

 

 しかし、特定の相続人が遺言書作成の段取りを全て行ったうえで、認知症などで事情が分かっていない本人を公証役場に連れて行き、公証人による本人の意思確認も不十分なまま遺言書が作成されてしまうこともあります。

 

 このように本人の真意に基づかない遺言書は、たとえ公正証書であったとしても無効になります。

 

 

◇無効と主張する場合の方法

 

 公正証書遺言の効力を争う場合、無効と主張する側から遺言無効確認の調停や民事訴訟などの法的手続を行う必要があります。このように争わない限り、公正証書遺言は有効なものとして、不動産の登記や預金の払戻などがなされてしまいます。

 

 それでは公正証書遺言の無効を主張する場合、遺言が本人の意思によるものでなかったことをどのように立証したらよいのでしょうか?

 

 まず介護施設の介護記録や医療機関の療養・看護記録を取り寄せるべきです。介護施設や医療機関によって対応はまちまちではありますが、相続人から依頼があれば、開示してもらえる場合があります。また、弁護士に依頼すれば、弁護士会照会手続(弁護士法23条による弁護士会から相手先への照会)を利用することができ、開示に応じてもらえる可能性は高くなるでしょう。もし、弁護士会照会によっても開示を受けられない場合、調停や訴訟などの法的手続をしたうえで、裁判所から医療機関等に対し文書送付嘱託をしてもらったり、さらに強力な文書提出命令を発してもらうことが考えられます。裁判所からの嘱託や命令であれば、資料が入手できる可能性はかなり高まります。

 

 また上記に加えて市区町村から介護保険の認定調査票を取り寄せるのが有益です。介護保険の認定調査票には、意思の伝達、短期記憶、金銭の管理、日常の意思決定などの能力を評価した結果が記載れており、遺言を作成するだけの判断能力があったのか否かに関する有益な資料となります。

 

 

◇長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とは

 

 認知症の判定に長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)という簡易テストが用いられることが多いのですが、その点数は裁判所が遺言の有効無効を判断するうえでの重要な要素となります。

 

 HDS-Rは年齢、日付、居場所などの質問、簡単な計算問題や暗記テストなどを行うもので、回答を点数化して認知能力を検査するものです。30点満点で20点以下だと認知症の疑いがあるものとされています。

 

 もちろんHDS-Rの点数だけで遺言を作成するだけの能力があったのかを判断することはできず、本人が意思疎通をどの程度できたのか、遺言の内容は複雑か単純か、遺言者のそれまでの言動に照らして遺言の内容が不自然ではないかなど、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。しかし、HDS-Rの点数が判断要素の一つであることは間違いありません。

 

 

◇裁判例の紹介  

 

 以下にいくつかの裁判例を紹介します。

 

遺言を有効と判断した裁判例
裁判所 判決日 遺言者の性別 遺言書
作成日

遺言の種類

遺言の内容 HDS-Rの点数と検査時期 事情
東京地裁 H25.10.9

H25.12.25

公正証書

全財産を三女に相続させる内容 13点

H19.5

認知症はあるものの単純な内容の意思決定が可能だったとし、遺言書を有効と判断。
東京地裁 H24.7.6

H21.5.25 公正証書 預貯金の一部を妹に、残りの財産をもう一人の妹に相続させる内容 15点 H21.10 遺言の翌日に書いた手紙の内容がしっかりしていた。
大阪高裁
H21.6.9
H11.7.2
公正証書
全財産を長男に相続させる内容
かなり低い(点数は不明)
 
  H12.9とH13.8の時点で生活自立度がⅠ、要介護は5
京都地裁
H13.10.10
H12.1.24
公正証書 相続人でない遠い親戚に全財産を遺贈する内容 4点
H11.10.16
相当高度な痴呆だったが、遺言を作った当時看護婦と会話をしており、コミュニケーションは可能だった。遺言が単純な内容だったこともあり、有効とされた。

 

 


遺言を無効と判断した裁判例
裁判所
判決日
遺言者の性別
遺言書
作成日
遺言の種類
遺言の内容
HDS-Rの点数
事情
東京高裁
H25.3.6
H19.3.2
公正証書
全財産を妹に相続させる内容
   
第1審の東京地裁は、有効と判断しており、第2審で無効とされた事例。
遺言作成時、大声、妄想、幻覚などの行動があり。情緒不安定のため複数の薬剤を投与されておりその影響を受けていた。
遺言者はほぼ全盲だったのに、公証人が気がついていなかった。手指不自由につき自署不能ということで公証人が署名を代筆している。
遺言書作成は妹が主導したと認定。
東京高裁
H22.7.15
H17.12.16
公正証書
妹に全財産を遺贈する内容
20点
H17.5.14
H17.3に軽度の暴言、甥夫婦が見舞いに行っても、ロシアから来たのかなどと言う状態だった。ただし受け答えはできた。
11点
H18.9
横浜地裁
H18.9.15
H11.11.11
公正証書
多数の不動産を複数の者に相続させる内容。遺言執行者の報酬も細かく指定。
9点
H11.6.15
子供4人が遺言の有効性を巡って係争。複雑な内容の遺言だったことも裁判所の遺言無効の判断に影響を与えた。
東京高裁
H12.3.16
H5.2.25
公正証書
複雑な内容だった。
4点
H5.3.22
第1審の東京地裁八王子支部では有効の判断。
第2審で鑑定が実施され、高度な痴呆状態だったという鑑定意見がでる。

 

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