相続で限定承認の相談をするべきケースとは?相続放棄との違いとメリット・デメリットを解説
相続が発生したとき、「借金も一緒に引き継いでしまうのでは…」と不安になる方は少なくありません。実は相続には、すべてを受け取るだけでなく、相続放棄や限定承認といった選択肢も用意されています。限定承認は、財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ制度で、状況によっては大きなメリットとなる一方、手続きが複雑で注意点も多い方法です。この記事では、限定承認を相談すべきケースや相続放棄との違い、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
限定承認とは?借金を抑えて相続できる仕組みを分かりやすく解説
相続が発生したとき、「財産だけもらって借金は引き継がない」という都合のいい選択肢があればと願う方もいらっしゃるかもしれません。実際に民法では、それに近い「限定承認」という制度が設けられています。相続の選択肢の中でも少し特別な限定承認は、一見すると「いいとこ取り」に見えるかもしれません。しかし、条件や手続きには注意点があるため、まずは基本的な仕組みを正しく理解しておくことが大切です。ここでは、限定承認がどんな制度で、他の相続方法とどう違うのか、具体的に見ていきましょう。
限定承認の定義と相続放棄・単純承認との違い
限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、故人(被相続人)の借金や債務を引き継ぐ相続方法です。つまり、相続財産が借金などのマイナス財産を上回っていれば、その差額を受け取ることができます。一方で、借金の方が多かった場合でも、相続人が自分の財産を使って返済する義務は原則として生じません。
限定承認の最大の特徴は、「財産があるかもしれないが、借金がどれくらいあるか分からず不安」という状況で、リスクを限定しながら相続できる点にあります。
相続の承認方法には、大きく分けて次の3つがあります。
1.単純承認|すべて引き継ぐ
単純承認は、故人の財産も借金もすべてそのまま引き継ぐ方法です。特別な手続きをしなかった場合には、自動的に単純承認したものとみなされます。また、相続財産を処分したり使ってしまった場合も、単純承認と扱われる可能性があります。例えば、不動産を売却するなどの行為をすると、「相続する意思がある」と判断されることがあります。その場合、後から多額の借金が発覚すると、相続人自身の財産から返済しなければならなくなるおそれがあります。
※なお、葬儀費用の支払いなどはケースによって扱いが異なるため、慎重な判断が必要です。
2.相続放棄|すべて引き継がない
相続放棄は、財産も借金も含めて一切相続しない選択です。家庭裁判所に申立てを行うことで、法律上「最初から相続人ではなかった」ことになります。借金が明らかに多い場合や、相続に関わりたくない場合に選ばれることが多い方法です。ただし、一度放棄すると、後から価値ある財産が見つかっても受け取ることはできません。また、相続放棄は相続人がそれぞれ個別に行えるため、自分だけ放棄することも可能です。
3.限定承認|財産の範囲内で責任を負う
限定承認は、単純承認と相続放棄の「中間」に位置する制度です。借金をすべて背負う必要はない一方で、財産を完全に手放す必要もありません。ただし実務上は、限定承認をすると相続財産を整理・清算する手続きが必要になるため、「特定の財産(自宅など)だけをそのまま残せる」とは限らない点に注意が必要です。
限定承認が検討されるケース
例えば、亡くなった親が自宅を所有していたものの、
- 借金があるか分からない
- クレジットカード債務が隠れているかもしれない
- 財産と負債の全体像が不明
といった場合、限定承認によってリスクを限定できる可能性があります。
限定承認のハードル
限定承認には、相続放棄と比べて次のような厳しい条件があります。
- 相続人全員が共同して申述しなければならない
- 家庭裁判所での手続きが必要
- 財産の整理や公告など、手続きが煩雑になりやすい
そのため、実際には利用されるケースは多くありません。
限定承認は非常に有効な制度ですが、判断を誤ると不利益になることもあります。迷った場合は、早めに弁護士など専門家へ相談することが重要です。
限定承認が成立する3つの条件
限定承認を行うには、民法で定められた要件をすべて満たす必要があります。条件を一つでも欠いてしまうと限定承認は認められず、場合によっては単純承認とみなされてしまうリスクもあります。ここでは、成立に必要な3つの条件を整理していきます。
1.相続人全員が共同して申述することが必要
限定承認は、相続人の一部だけが選ぶことはできません。法定相続人全員が足並みを揃え、共同で家庭裁判所に申述する必要があります。これは相続放棄との大きな違いです。相続放棄は各相続人が個別に判断できますが、限定承認は相続人全員が手続きに参加することが前提となります。
例えば兄弟3人が相続人の場合、1人でも申述に加わらなければ、限定承認は成立しません。
実際には相続人同士で意見が対立したり、遠方で連絡が取りづらい親族がいたりすると、全員の協力を得ること自体が難しい場合もあります。また、相続人に未成年者や判断能力が十分でない方がいる場合には、特別代理人や成年後見人の選任が必要になることがあり、手続きはさらに複雑になります。
2.熟慮期間(原則3か月以内)に家庭裁判所へ申述すること
限定承認を選ぶには、原則として「相続開始を知り、かつ自分が相続人であることを知った日」から3か月以内に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期間を「熟慮期間」と呼びます。3か月という期間は意外と短く、葬儀や役所の手続き、財産や借金の調査をしているうちに期限が迫ってしまうことも少なくありません。
相続財産の調査に時間がかかりそうな場合には、家庭裁判所へ「熟慮期間の伸長(延長)」を申し立てることで、期間を延ばせる場合もあります。ただし延長にも手続きが必要なため、早めの対応が重要です。熟慮期間を過ぎてしまうと、原則として単純承認したものとみなされ、借金も含めてすべて引き継ぐことになるため注意が必要です。
3.相続財産を処分していないこと(法定単純承認に注意)
限定承認をする前提として、相続財産を勝手に処分したり、隠したり、私的に消費したりしていないことが求められます。例えば、故人の預金を引き出して生活費に充てたり、不動産を売却してしまった場合には、「単純承認したもの」とみなされ、限定承認ができなくなる可能性があります。
この仕組みは「法定単純承認」と呼ばれ、民法で規定されています。相続財産を処分した時点で、法律上「相続を全面的に受け入れた」と判断されてしまうおそれがあるのです。ただし、財産の保存に必要な行為や、社会通念上相当な葬儀費用の支払いなどについては、単純承認とみなされない場合もあります。判断が難しいケースも多いため、限定承認を検討している段階では、できるだけ相続財産に手をつけず、専門家に相談するのが安全です。
以上の3つの条件をすべて満たして初めて、限定承認という選択肢が現実のものとなります。逆に言えば、どれか一つでも欠けていると、思わぬ形で単純承認とみなされ、借金まで背負うことになりかねません。
相続は法律関係が複雑で、手続きも期限が厳しいため、一人で判断するのが難しい場面も少なくありません。「限定承認が合っているかもしれない」と感じた場合は、早めに弁護士や司法書士など専門家に相談することが重要です。
限定承認の3つのメリット
亡くなった方の財産を相続するとき、「借金があったらどうしよう」と不安に感じる方は少なくありません。財産がプラスなのかマイナスなのか正確に把握できない状況であっても、限定承認という選択肢を使えば、相続人がリスクを抱えすぎることなく遺産を引き継ぐことができます。ここでは、限定承認を選ぶことで得られる代表的なメリットを3つご紹介します。
1.プラス財産の範囲内でしか借金を負わない安心感
限定承認の最大の特長は、相続によって引き継いだプラスの財産を超えてまで、借金を返済する必要がないという点です。
例えば、亡くなった方に500万円の預金がある一方で、負債が800万円あったとします。単純承認をすると、相続人は差額である300万円についても、自分の財産から返済しなければならなくなる可能性があります。
しかし限定承認を選択すれば、相続人が負う返済責任は、あくまで相続財産の範囲内に限られます。つまり、500万円のプラス財産を超える300万円については、相続人が個人的に返済義務を負わずに済む仕組みです。
この制度は、遺産の全体像がはっきりしない状況で相続をする場合に特に役立ちます。例えば、故人が事業を営んでいたり、生前の財産状況を十分に把握できていなかったりするケースでは、調査を尽くしても負債の全容が明らかにならないこともあります。
そのようなときに限定承認を選んでおけば、後から予想外の借金が発覚したとしても、相続財産の範囲を超えて請求されるリスクを抑えることができます。
また、この安心感は心理的な負担の軽減にもつながります。相続をきっかけに思いがけない借金まで背負ってしまうのではないか、という不安が和らぐため、落ち着いて手続きを進めやすくなるでしょう。
手元に残したい財産がある一方で負債の規模が不透明で不安な場合、限定承認は生活や財産を守りながら相続するための有力な選択肢となります。
2.相続放棄では失う大切な財産も守れる可能性
相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も含めて、相続そのものを一切引き継がないことになります。つまり、借金を背負わずに済む代わりに、財産もすべて受け取れなくなります。
例えば、故人が大切にしていた家族写真のアルバムや、祖父母から受け継がれてきた骨董品、自宅として使われていた不動産など、経済的価値だけでは測れない遺産が含まれている場合でも、相続放棄をすると原則としてそれらを受け取ることはできません。
一方、限定承認を利用すれば、相続財産の範囲内で債務を清算しながら、一定の条件のもとで特定の財産を手元に残せる可能性があります。
限定承認は遺産を整理・清算する手続きが前提となるため、財産をそのまま無条件で受け取れるわけではありません。しかし、清算の過程で相続人が特定の財産を適正な評価額で取得する方法が取れる場合もあります。
例えば、故人が住んでいた実家をどうしても手放したくない場合、不動産を鑑定評価したうえで、その価額を支払うことで取得できるケースがあります。もちろん資金の準備が必要になるため負担はありますが、「残したい財産を守る道が残される」という点は相続放棄にはない特徴です。
この制度は、故人と同居していた相続人や、家業を引き継ぐ立場にある方にとって特に意味を持つことがあります。
長年住み慣れた自宅や親が営んでいた商店の土地建物など、生活や記憶が詰まった財産を失うことは精神的にも実務的にも大きな負担です。限定承認を選ぶことで、こうした財産を守れる可能性がある点は、大きなメリットといえるでしょう。
3.家業や思い出の不動産を残しながらリスクを最小限に
限定承認が特に力を発揮するのは、事業用資産や代々受け継いできた不動産を引き継ぎたい一方で、負債の有無や規模がはっきりしない場合です。
例えば、父親が経営していた小さな町工場があり、その土地・建物・機械設備などを次世代に残したいと考えているとします。しかし事業には、未払いの債務や借入金、保証債務などが関係していることも多く、単純承認をしてしまうと、相続人がそれらをすべて引き継ぐリスクがあります。
かといって相続放棄を選べば、借金を免れる代わりに工場そのものも受け取れず、家業の継続が難しくなる可能性があります。
こうしたケースで限定承認を選択すれば、相続財産の範囲内で債務を清算しつつ、一定の条件のもとで必要な資産を取得できる可能性があります。
限定承認では遺産を整理・清算する手続きが前提となるため、資産を無条件にそのまま引き継ぐことができるわけではありません。しかし清算の過程で、工場の土地建物や機械設備について適正な評価額を算出したうえで、相続人が価額を支払って取得する方法が取れる場合もあります。
この手順を踏むことで、予想外の借金を個人で背負うリスクを抑えながら、事業に必要な資産を守り、家業の継続につなげられる可能性があるのです。
また、実家や別荘など思い入れのある不動産についても同様の考え方が当てはまります。
例えば祖父母の代から受け継いできた田舎の古民家を将来的に活用したい場合、単純承認では思わぬ負債を引き継ぐ恐れがあり、相続放棄では不動産そのものを失ってしまいます。
限定承認であれば、遺産全体を清算したうえで、その不動産を評価額に基づいて取得できる可能性があり、借金のリスクを限定しつつ、大切な場所を手元に残せるという可能性が残ります。
家業の継続や思い出の詰まった不動産の維持は、単なる経済的な問題だけでなく、家族の歴史や生活基盤に関わる大切なテーマです。限定承認を活用することで、感情面にも配慮した形での相続が可能となります。
限定承認は手続きが複雑で、相続人全員が共同して申述する必要があるなど、実務上のハードルもあります。そのため、遺産に借金があるかもしれないが大切な財産も守りたいという場合には、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談することが重要です。
限定承認のデメリットと注意点
限定承認とは、相続で得た財産の範囲内でのみ借金を返済し、もし財産が余ればそれを受け取れるという、一見すると魅力的な仕組みです。しかし実際には、手続きの複雑さや費用、関係者との調整など、いくつもの壁が存在します。ここでは、限定承認を選ぶ前に知っておくべきデメリットと注意点について解説していきます。
1.手続きが複雑で完了まで時間がかかる
限定承認の大きなデメリットとして挙げられるのが、手続きの複雑さと完了までに時間がかかることです。相続放棄などと比べて求められる手続きが多く、一般の方がご自身だけで進めるのは容易ではありません。
まず限定承認を選択する場合、原則として「相続開始を知り、かつ自分が相続人であることを知った日」から3か月以内に、家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期間内に相続財産を調査し、財産目録を作成し、相続人全員が共同で申述するための準備を整える必要があります。しかし実際には、預金口座や不動産、借金の有無を正確に把握するだけでも相当な時間がかかるため、期限内に準備を終えること自体が大きなハードルになります。
さらに、家庭裁判所に申述が受理された後も手続きは続きます。限定承認では、相続財産の範囲内で債務を清算する必要があるため、債権者への公告や催告を行い、申し出のあった債権に対応しながら、財産を管理して弁済手続きを進めていきます。この公告手続きには一定の期間を設ける必要があり、債権者との連絡や書類のやり取りも発生します。
また、相続財産を現金化して弁済する必要がある場合には、不動産などを評価したうえで換価(売却)することもあります。ただし、必ず競売になるわけではなく、状況に応じて任意売却など別の方法が取られることもあります。
不動産の鑑定や売却には時間がかかることも多く、手続きが完了するまでに半年以上、場合によっては1年以上かかるかもしれません。
このように限定承認は、単なる書類提出で終わる制度ではなく、長期間にわたって継続的な対応が求められる手続きです。その間、他の相続人との調整や裁判所・債権者への対応が必要となるため、精神的・時間的負担も大きくなることを理解しておく必要があります。
2.相続人全員の合意が必須条件
限定承認のもう一つの大きなハードルが、相続人全員が共同して手続きを行う必要があることです。
相続放棄であれば、各相続人が個別に判断して申し立てることができますが、限定承認は相続人の一部だけで選ぶことはできません。法定相続人全員が足並みを揃え、共同で家庭裁判所に申述しなければ成立しない仕組みです。
この「全員がそろって申述する」という要件が、実務上もっとも大きな障壁になるケースも少なくありません。
例えば、相続人が配偶者と子ども3人の計4人いる場合、そのうち1人でも限定承認の申述に参加しないと、手続きは成立しません。相続人の中には遠方に住んでいて連絡が取りづらい人や、疎遠になっている親族が含まれることもあり、全員の意思を確認して協力を得るだけでも難しい場合があります。
また、相続人それぞれの考え方や状況によって意見がまとまらないこともあります。
例えば、「借金があるかもしれないので慎重に進めたい」と考える人がいる一方で、「早く相続を終わらせて財産を確定させたい」と考える人がいると、限定承認に全員が納得するのは簡単ではありません。
さらに限定承認は手続きに時間と手間がかかるため、「そこまでして限定承認を選ぶ必要があるのか」と疑問を持つ相続人が出てくることもあります。場合によっては、得られる財産より手続き負担の方が大きく感じられることもあり、説得が難しくなるケースもあります。
このように限定承認は制度としては存在していても、実際に利用するには相続人全員の理解と協力が不可欠であり、その調整自体が大きなハードルになることを理解しておく必要があります。
もし相続人間で意見の対立が生じた場合には、弁護士や司法書士などの専門家に間に入ってもらい、状況を整理しながら話し合いを進めることをおすすめします。
3.手続き費用や専門家報酬が発生する
限定承認を選択する際には、手続きにかかる実費や、専門家に依頼した場合の報酬についても考慮しておく必要があります。限定承認は法的手続きが複雑で、一般の方がご自身だけで進めるのは容易ではありません。そのため、多くの場合、弁護士や司法書士など専門家のサポートを受けることになります。
まず、家庭裁判所への申述にあたっては、収入印紙代や郵便切手代などの実費が必要です。これらは数千円程度で済むことが一般的です。しかし限定承認ではその後も多岐にわたる対応が求められるため、状況に応じて追加費用が発生する可能性があります。
例えば、官報に公告を行う場合には数万円程度の費用がかかります。また、不動産が含まれるケースでは、評価や売却手続きのために鑑定費用や手続き費用が必要になることもあり、内容によっては数十万円単位になる場合もあります。
さらに、財産を換価する必要がある場合には、任意売却や競売などの方法が検討され、その過程で費用が発生することもあります。
そして大きな負担となりやすいのが、専門家への報酬です。限定承認の手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合、報酬額は案件の内容や財産規模によって異なりますが、数十万円程度となることが多く、複雑な事案ではさらに高額になるケースもあります。
ここで注意したいのは、これらの費用が必ず相続財産から支払われるとは限らないことです。専門家報酬の負担方法は契約内容によって異なり、相続人が立て替えたり持ち出しになる場合もあります。また、相続財産が少ない場合や、債務の弁済によって残る財産がわずかである場合には、手続き費用や報酬を差し引くと実質的に手元に残るものがほとんどない可能性もあります。
そのため、限定承認を検討する際には「借金があるかもしれないから安全策を取りたい」という理由だけでなく、手続き費用と得られる財産のバランスを冷静に見極めることが重要です。場合によっては、相続放棄を選んだ方が負担を抑えられることもあるため、早い段階で専門家に相談し、ご自身の状況に合った最適な選択肢を整理することをおすすめします。
どんな時に限定承認を選ぶべき?判断基準と具体例
相続が発生したとき、特に、親や配偶者が事業をしていた場合や、家族との交流が疎遠だった場合、財産の全体像が見えないまま相続の判断を迫られることもあります。
そんなとき選択肢のひとつとなるのが「限定承認」です。この方法は、相続財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐという、いわば「条件付きの相続」のような仕組みです。ただし、すべての状況に適しているわけではなく、手続きも複雑です。ここでは、どんな場面で限定承認を検討すべきか、実際のケースと判断基準を交えながら整理していきます。
借金があるか分からないが家や土地は残したいケース
限定承認が力を発揮するのは、「財産の一部は確実に守りたいが、負債の有無がはっきりしない」という状況です。例えば、亡くなった親が長年住んでいた実家や先祖代々の土地を手放したくない一方で、借金があるかもしれないという不安がある場合、限定承認は検討すべき選択肢のひとつになります。
相続放棄をすると、借金を引き継がずに済む代わりに、家や土地などの財産も一切受け取れなくなります。逆に、十分に調べないまま単純承認してしまうと、後から多額の借金が判明した際に、相続人自身の財産から返済を求められる可能性があります。
限定承認を選べば、相続人が負う責任は原則として相続財産の範囲内に限られるため、「財産を守りたいが借金を背負うのは不安」という場合のリスクを抑えやすくなります。
- 実家の土地を守りたいが連帯保証債務が心配な場合
連帯保証債務も相続の対象になるため、故人が保証人になっていた場合、相続人がその責任を引き継ぐ可能性があります。ただし保証債務は表に出にくく、通知が来るまで存在に気づかないケースもあります。そのような「見えない負債」が不安なとき、限定承認によって責任を相続財産の範囲内に限定できる可能性があります。
- 売却しにくい不動産がある場合
古い家屋や山林など市場価値が低い不動産が遺産に含まれる場合、相続するか放棄するか判断が難しいことがあります。限定承認を選ぶことで、借金の有無や全体像を踏まえたうえで、リスクを限定しながら対応する道が残されます。
ただし限定承認は清算手続きが前提となるため、必ず不動産をそのまま残すことができるとは限らず、取得には評価額に基づく手続きが必要になる場合があります。
家業を継ぎたいが借金の詳細が不明なケース
限定承認が検討される典型例として、事業承継に関わる相続があります。亡くなった親が個人事業主や中小企業経営者だった場合、店舗や設備等の資産と、借入金・買掛金・保証債務等の負債が複雑に絡んでいることがあります。
このような状況では、相続放棄をすれば事業は継続できず、単純承認をすれば予想外の負債を背負うリスクがあります。限定承認を選べば、相続財産の範囲内で責任を負う形になるため、最悪の場合でも相続人個人の生活資金まで失うリスクを抑えられる可能性があります。ただし事業用資産を引き継ぐには清算手続きが必要となり、時間や調整負担が大きい点には注意が必要です。
また限定承認では、相続財産の清算過程で「みなし譲渡所得税」が発生する可能性もあるため、確定申告の手続きも含め、税理士との連携も重要になります。
財産と借金の調査結果による判断ポイント
限定承認を選ぶべきか判断するには、まず相続財産と負債の全体像をできる限り把握することが欠かせません。
調査対象としては次のようなものがあります。
・プラスの財産:預貯金、不動産、有価証券など
通帳、登記簿、証券口座の明細などを確認します。
・マイナスの財産:借入金、クレジット残債、保証債務など
郵便物や引き落とし履歴の確認が有効です。信用情報機関への照会も参考になりますが、保証債務などは把握できない場合もあります。
調査結果を踏まえた判断の目安は次の通りです。
・財産が明らかに借金を上回る場合
→ 単純承認が基本となります。ただし不明な負債が懸念される場合は慎重に判断が必要です。
・借金が明らかに財産を上回る場合
→ 相続放棄が現実的です。
・財産と借金の差が不明、判断が難しい場合
→ 限定承認が検討される場面です。
重要なのは、「よく分からないまま放置しないこと」です。期限もあるため、迷った段階で早めに専門家へ相談することをおすすめします。弁護士や司法書士に相談すれば、財産調査や財産目録の作成、裁判所への申述準備までサポートを受けられるため、精神的負担も大きく軽減されます。
限定承認の手続き方法と費用
限定承認は相続放棄に比べて手続きが複雑で、事前準備と適切な対応が不可欠です。ここでは、家庭裁判所への申し立てから必要書類、実際にかかる費用までの流れを解説します。
家庭裁判所への申述手続きの具体的な流れ
限定承認の申述は、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。手続きの流れは大きく次の通りです。
① 申述期限(3か月以内)に注意する
限定承認には期限があります。原則として、
- 「相続開始を知り」
- 「かつ、自分が相続人であることを知った日」
から3か月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません(熟慮期間)。一般的には死亡を知った日が起算点となることが多いですが、事情によって起算日が問題になる場合もあります。
② 相続人全員が共同で申述する必要がある
限定承認は相続人の一部だけでは選べず、相続人全員が共同して申述することが必要です。相続放棄のように個別に手続きできる制度ではないため、親族間で意見がまとまらない、連絡が取れない相続人がいる、といった場合には大きな障壁になります。調整が難しい場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。
③ 申述書と必要書類を準備する
申述書には次の情報を記載します。
- 被相続人の氏名・最後の住所
- 相続人全員の氏名・続柄・住所
また、申述時には必要書類の提出も求められます。
代表的には、
- 戸籍関係書類
- 相続人を証明する書類
- 相続財産の概要を示す財産目録
などです。
④ 家庭裁判所へ提出し、審査を受ける
書類を提出すると、家庭裁判所で形式的な審査が行われます。不備がなければ、「限定承認申述受理通知書」が送付され、限定承認が正式に受理されたことになります。
⑤ 受理後も清算手続きが続く
受理された後は、ここから相続財産の清算手続きが始まります。
主な対応としては、以下のとおりです。
- 債権者への公告・催告
- 相続財産の管理
- 債務の弁済
- 必要に応じた財産の換価(売却など)
※相続財産管理人が選任される場合もありますが、必ず選任されるわけではありません。
限定承認は手続きが長期化しやすく、
- 債権者対応
- 財産の換価
- 書類作成・裁判所対応
など専門的知識が必要になる場面も多いため、弁護士や司法書士に依頼するケースが一般的です。
事前に準備しておくべき書類一覧
限定承認の申述には、被相続人や相続人を確認するための戸籍関係書類など、複数の公的書類が必要になります。取得には時間がかかることもあるため、早めに準備を始めることが重要です。
主な必要書類は次の通りです。
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要になります。転籍や婚姻などによって複数の自治体にまたがる場合、それぞれの役所から取り寄せなければなりません。戸籍の収集に不安がある場合は、司法書士などに依頼することで漏れなく取得できることもあります。
- 相続人全員の戸籍謄本・住民票
相続人全員分の戸籍謄本などを揃える必要があります。相続人が遠方に住んでいる場合、郵送でのやり取りに時間がかかることもあります。未成年の相続人がいる場合には、特別代理人の選任が必要となるケースもあるため注意が必要です。
- 相続財産目録
限定承認では、相続財産と負債の一覧をまとめた財産目録の提出が求められます。不動産、預貯金、有価証券、動産、借入金などを可能な範囲で記載し、不動産であれば固定資産評価証明書、預貯金であれば残高証明書などの資料を参考にします。
- 申述書に必要な署名・押印
限定承認は相続人全員が共同して申述する制度です。そのため、申述書には相続人全員が関与する必要があります。印鑑証明書などの提出が求められるかどうかは裁判所の運用によって異なる場合があるため、事前に確認すると安心です。
書類の準備で不明点がある場合や取得に手間取る場合は、早めに専門家に相談することで負担を減らせることもあります。
手続き費用の目安と専門家報酬
限定承認にかかる費用は、大きく分けて次の2つです。
- 裁判所に支払う実費
- 専門家に依頼する場合の報酬
1.裁判所に支払う実費
申述にあたっては、収入印紙代や郵便切手代などが必要になります。収入印紙は通常800円程度とされることが多く、切手代も数百円〜数千円程度が一般的です。実費自体は比較的少額です。
2.専門家への報酬
限定承認は手続きが複雑であるため、弁護士や司法書士に依頼するケースが多くなります。報酬額は事案の内容や財産規模によって異なりますが、数十万円程度から、複雑な場合にはそれ以上になることもあります。申述手続きに加えて、債権者対応や財産換価が必要となる場合には追加費用が発生する可能性があります。
相続財産管理人の選任が必要になる場合もある
限定承認後の手続きの中で、必要に応じて相続財産管理人が選任されるケースもあります。ただし必ず選任されるわけではありません。管理人報酬は相続財産から支払われることが多いですが、財産が不足している場合には相続人負担となることもあります。
税務上の注意点(みなし譲渡所得)
限定承認では、相続財産が時価で譲渡されたものとみなされ、譲渡所得課税が生じる可能性があります。不動産や株式など含み益がある資産がある場合には、相続税も含めて税理士へ相談することも重要です。
限定承認は安心を得られる制度である一方、手続き負担や費用も伴います。誤った対応をすると単純承認とみなされるリスクもあるため、早めに専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
まとめ
相続が発生したとき、「財産はあるけれど借金もあるかもしれない」と不安になる方は少なくありません。相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金や保証債務などのマイナスの財産も引き継ぐ可能性があるためです。こうした場合に検討される選択肢のひとつが「限定承認」です。
限定承認とは、相続によって得た財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ制度で、相続人が自分の財産まで使って返済する必要がない点が特徴です。例えば「実家は残したいが負債がどれくらいあるか分からない」といったケースでは、リスクを抑えながら相続できる可能性があります。
一方で相続放棄は、財産も借金も一切引き継がず、最初から相続人でなかったことになる制度です。借金が明らかに多い場合には有効ですが、後から価値ある財産が見つかっても受け取れません。
限定承認は相続放棄と単純承認の中間に位置する方法ですが、相続人全員が共同で申述する必要があり、手続きも複雑で時間がかかる点には注意が必要です。
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この記事の執筆者

弁護士 伴 広樹
経歴
神奈川県厚木市出身。1997年司法試験合格後、2000年に司法修習を修了(52期)し、弁護士登録。横浜市内の法律事務所に勤務後、2004年に伴法律事務所を開設。年間280件の相続の法律相談に対応している。
弁護士業務では①お客様の期待に沿う徹底した調査,②お客様が納得できる提案力,③お客様が安心して任せられる確実かつ迅速な処理の3つを心がけており、実際に業務に対しての評価も高い。
活動・公務など
・神奈川大学非常勤講師(2009年9月~2016年3月)
・明治大学リバティアカデミー(市民講座)講師(2015年~2016年)
・横浜弁護士会(現神奈川県弁護士会)常議員(2009年4月~2010年3月)
・一般社団法人神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会神奈川健生成年後見センター運営委員会委員(2015年8月~)
・セミナー講師としての活動 川崎市役所,東京地方税理士会保土ヶ谷支部,神奈川県宅地建物取引業協会横浜中央支部,神奈川青年司法書士協議会など各種団体におけるセミナー講師を担当





