相続放棄の期限は何ヶ月?期間が過ぎてしまった場合の対処法を解説
相続放棄には期限があり、これを過ぎると原則として放棄できなくなります。相続放棄の申述期限は「相続の開始を知った日から3か月以内」と法律で定められており、知らないうちに期限を過ぎてしまうケースも少なくありません。では、期限が過ぎた場合は本当に手遅れなのでしょうか。この記事では、相続放棄の正確な期限の考え方や、3か月を過ぎてしまった場合の対処法について解説します。
相続放棄の期限「3ヶ月」の正確な計算方法と起算点
相続放棄の期限は「3か月以内」とされていますが、実際にはいつから数えるのかを正しく理解していないと、思わぬ期限切れにつながるおそれがあります。起算点は単純に被相続人が亡くなった日ではなく、「相続の開始を知った日」が基準となるため、状況によって判断が分かれることも少なくありません。ここでは、相続放棄の3か月の正確な計算方法と起算点の考え方について解説します。
「相続の開始を知った時」とは具体的にいつのこと?
相続放棄の期限である「3ヶ月(熟慮期間)」は、民法第915条で「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算すると定められています。ここで重要なのは、単に「相続が発生した」という事実だけでなく、「自分が相続人になった」という事実を認識した時点が起算点になる、という点です。
例えば、遠方に住む叔父が亡くなっても、あなたに連絡がなければ事実を知る由もありません。この場合、訃報を受け取った日や役所からの通知を受け取った日が、起算点となります。
また、「相続の開始を知った」という認識については、「自分が法定相続人であるという立場を認識する」という意味も含まれます。例えば、第一順位の子どもが全員相続放棄をした結果、第二順位の親が相続人になった場合、その親が「自分に相続権が回ってきた」と知った時点が起算点となるわけです。このように、相続放棄の期限は画一的に「死亡日から3ヶ月」というわけではなく、相続人それぞれの状況に応じて柔軟に判断されます。
実務上、起算点を正確に把握するには、いつ誰からどのような形で連絡を受けたのか、記録を残しておくことが重要です。メールや郵便の日付、電話の履歴などが、後々の証拠として役立つことがあります。
死亡日と期限開始日が異なる5つのケースと判定基準
相続放棄の起算点が死亡日と一致しないケースは、実は珍しくありません。ここでは、実務上よく見られる代表的なケースと、それぞれの判定基準について見ていきましょう。
- 音信不通だった親族が亡くなったケース
長年連絡を取っていなかった親や兄弟姉妹が亡くなった場合、死亡の事実をすぐに知ることができないことが考えられます。例えば、疎遠だった父親が亡くなってから数か月後に市役所から連絡が来たケースです。この場合、実際に連絡を受けた日が起算点となり、そこから3ヶ月の期限が始まります。 - 先順位の相続人が全員放棄したケース
第一順位(子ども)が全員相続放棄をすると、第二順位(親)に相続権が移ります。このとき、親が「自分に相続権が回ってきた」と知った日が起算点となります。 - 相続財産の存在を後から知ったケース
被相続人が亡くなった時点では財産も借金もないと思っていたが、後になって多額の負債が発覚した場合、新たな事実を知った時点で改めて熟慮期間が始まる可能性があります。ただし、これは「当初、財産も負債もないと信じるだけの合理的な理由があった」場合に限られます。 - 未成年者や胎児が相続人になったケース
未成年者が相続人となる場合、その法定代理人(通常は親)が代わりに相続放棄の手続きを行います。このとき、未成年者が相続人であることを親が知った時点が起算点です。胎児であった子どもは、出生した時点で相続人としての権利を持つため、生まれた日から3ヶ月が起算点となります。 - 相続人が行方不明・意識不明だったケース
相続人自身が長期入院中で意識がなかったり、海外赴任中で連絡が取れなかったりした場合なども、実際に相続の事実を認識できる状態になった時点が起算点と判断されることがあります。
これらのケースに共通するのは、「客観的に見て、相続人が相続の開始を認識できる状態にあったかどうか」が判定基準になるということです。「知らなかった」だけでは認められず、知らなかったことに合理的な理由が必要なのです。判断に迷う場合は専門家に相談し、正確な期限を確認することをおすすめします。
借金や負債を後から発見した場合の期限リセット
相続放棄を考える大きな理由の一つが、被相続人の借金や負債です。しかし、亡くなった直後には財産も負債も把握しきれず、後になって多額の借金が判明することは決して珍しくありません。
判例では、相続人が「相続財産が全く存在しないと信じ、かつそう信じることに相当な理由がある場合」には、後から負債を知った時点を新たな起算点とすることが認められています。例えば、生前に父親が「借金はない」と明言しており、同居していた家族も負債の存在を全く知らなかったようなケースです。
ただし、これが認められるには一定の条件があります。まず、相続人が積極的に財産調査を行ったにもかかわらず、負債の存在を発見できなかったという事情が必要です。また、負債の存在を知った後は、速やかに相続放棄の手続きを進めることが求められます。借金を知ってからさらに数か月放置してしまうと、「もはや相続を承認したものとみなされる」というリスクが高くなります。
さらに重要なのは、「相続財産について一部でも処分していないか」という点です。例えば、被相続人の預金を引き出して葬儀費用に充てたり、不動産を売却したりすると、「単純承認」とみなされ、以後相続放棄ができなくなる可能性があります。負債の発覚後も、安易に財産に手をつけず、専門家の助言を仰ぎながら慎重に対応することが不可欠です。
このように、後から借金が発覚した場合でも、状況によっては期限のリセットが認められることがあります。しかし、それが認められるかどうかは個別の事情に大きく左右されるため、少しでも不安がある場合は、早い段階で弁護士や司法書士に相談しましょう。
期限を過ぎても諦めない!3ヶ月延長と救済措置
相続放棄には「相続の開始を知った日から3か月以内」という期限がありますが、期限を過ぎたからといって必ずしも諦める必要はありません。事情によっては、家庭裁判所に申立てを行うことで期限の延長が認められたり、特別な事情があれば救済されるケースもあります。ここでは、相続放棄の3か月期限の救済措置について解説します。
家庭裁判所への期間伸長申立て(3ヶ月延長)の条件と方法
相続放棄の期限である「相続開始を知ってから3か月以内」という期間は、状況によっては家庭裁判所に申し立てることで延ばすことができます。これを「熟慮期間の伸長」と呼び、相続財産の調査などに時間がかかり、まだ判断できる状況にないと家庭裁判所が認めた場合に、一定の期間延長が許可されます。
実務上は、1回あたりおおむね3か月程度の延長が認められることが多いですが、事情によってはより短いまたは長い期間が認められる場合もあります。最初の3か月の期限内に申し立てることが絶対条件であり、期限を過ぎてしまうと延長は認められません。また、十分な理由がない限り、何度も申請できるものではありません。
どんなときに延長が認められるのか
家庭裁判所が熟慮期間の伸長を認めるのは、次のような正当な理由がある場合です。
- 相続財産の全容が把握できていない
- 財産や負債の調査に時間を要する合理的な事情がある
例えば、被相続人が遠方に居住していて財産調査が物理的に困難な場合や、複数の金融機関・不動産を確認する必要があり、確認作業が未完了の状況などが該当します。
「亡くなった父が複数の県に不動産を所有しており、登記簿謄本の取得に時間を要する」あるいは「複数の消費者金融との取引が疑われ、信用情報機関からの開示を待っている」などの事情があれば、合理的な理由として認められやすいです。
一方で、「忙しくて放置していた」「特に調査をしていなかった」などの理由では認められません。あくまで、やむを得ない事情によって調査に時間が必要であることを客観的に説明する必要があります。
実際の申立ての手順
申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。提出書類は以下のとおりです。
- 熟慮期間伸長の申立書(各家庭裁判所のウェブサイト等から入手可)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申立人(相続人)の戸籍謄本
- 相続財産の概要を示す資料(預金通帳の写し、不動産の固定資産評価証明書など)
申立書には「なぜ延長が必要なのか」を具体的に記載します。
例えば「被相続人名義の不動産(東京・大阪・福岡)があり、登記簿謄本を取り寄せ中で、財産の全体像を把握できるのは約1か月後の見込みです」といったように、調査の進捗と見通しを明示してください。
申立てには収入印紙800円と、郵便切手(裁判所により異なるが数百円程度)が必要です。申立て後、おおむね1〜3週間程度で審判が下り、認められれば、その時点から延長が許可された期間(多くは3か月程度)の猶予が与えられます。
よくある誤解と注意点
「ひとまず申立てしておけば時間が延びる」と考えるのは注意が必要です。
申立てを行うこと自体が相続開始を知っていることを前提にしているため、延長が認められなかった場合には、その時点から3か月が経過すると相続放棄ができなくなるおそれがあります。
また、「審判が出るまでに元の期限が切れてしまうのでは」と心配する方もいますが、実務上は申立てを受理した時点で期間の進行が一時的に止まっているものとして裁判所が扱うことが多いです。ただし、そのような停止効果は法律上明示されているわけではないため、常に確実に認められるとは限りません。したがって、期限のぎりぎりではなく、余裕をもって申立てることが何より重要です。
期限経過後でも相続放棄が認められる「特別な事情」とは
相続放棄には原則として「相続開始を知ってから3か月以内」という期限がありますが、すべての場合にこの期間が絶対というわけではありません。一定の条件を満たせば、期限を過ぎた後でも相続放棄が認められる場合があります。これは法律上の明文規定ではなく、判例上認められた例外的な取扱いです。
「相続があったことを知った時」の解釈がカギ
民法第915条1項では、相続放棄の熟慮期間を
「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」
と定めています。
ここでいう「知った時」とは、単に「親が亡くなったことを知った時」ではなく、相続財産(権利義務)の存在と内容を具体的に知り、放棄するかどうか判断できる状況を知った時点を指します。
最高裁昭和59年4月27日判決は、
「相続財産が全くないと信じ、かつそのように信じることに相当な理由がある場合は、財産の存在を知った時を起算点とできる」
と判示しています。
したがって、例えば被相続人の死亡後しばらく経ってから債権者から督促状が届き、その時に初めて負債の存在を知った場合には、その時点から3か月以内に相続放棄を申し立てれば、認められる可能性があります。
「特別な事情」と判断される主な要素
家庭裁判所は、期限後の相続放棄を認めるかどうかを総合的に判断します。主な考慮要素は次のとおりです。
- 被相続人との関係性:生前の交流状況や居住距離。疎遠であった場合には「財産を把握できなかった」との主張が通りやすくなります。
- 調査可能性:通常の注意義務を尽くしても財産・債務を把握できなかったか。遠方居住や情報不足などが該当します。
- 債務を知った経緯と証拠:督促状や差押通知等を初めて受け取った時期と内容。
- 知後の対応の迅速性:負債の存在を知ってから放棄申立てまでの期間が短いほど、真摯な対応と評価されやすいです。
一方で、
「葬儀に参加して遺品整理も行っていた」
「預金通帳を閲覧して財産を把握していた」
「督促状を受け取っていたのに何か月も放置していた」
などのケースでは、裁判所は「相続を知っていた」と判断し、期限後放棄は認められません。
上申書の提出が事実上必要
期限を過ぎてから相続放棄を申し立てる場合には、通常の「相続放棄申述書」に加えて、上申書(事実経過説明書)の提出を求められます。
これは法的義務ではありませんが、ほぼすべての裁判所が添付を求める書面です。
上申書には、次のような事項を時系列で具体的に記載します。
- 被相続人との関係と生前の交流状況(同居・音信不通など)
- 相続開始を知った日および当時把握していた財産状況
- 負債の存在を知った経緯と日時(督促状が届いた日、差出人など)
- その後相続放棄を決断し申立てに至った経過
- 「相続財産がないと信じるに相当な理由」があったことの説明
この記載内容と添付資料(郵便物、督促状、通帳写し等)の内容が、裁判所の判断を大きく左右します。
期限後放棄はあくまで例外的措置
期限後の相続放棄は、極めて限定的な例外救済措置です。
同じような事情でも家庭裁判所の判断が分かれることがあり、裁量的要素が大きい制度といえます。そのため、期限を過ぎてしまった場合は、できるだけ早く弁護士や司法書士など専門家に相談し、上申書作成や証拠整理のサポートを受けることが重要です。
実際に期限後の放棄が認められた判例と成功事例
ここでは、表面的には熟慮期間(3ヶ月)を経過した後でも、家庭裁判所が「例外的に相続放棄を受理した」ケースを紹介します。
事例:遠方に住む父の死亡を1年後に知ったケース
Aさんは幼少期に両親が離婚し、その後父親とは一切連絡を取っていませんでした。父親の居住地や生活状況も把握しておらず、音信不通の状態が続いていました。ある日、父の死亡から約1年後、市役所から死亡通知の連絡を受けました。Aさんは葬儀にも参加しておらず、遺産や債務について何も知りませんでした。
その後、数ヶ月経ってから消費者金融から「相続人として返済してほしい」という通知が届き、初めて父に多額の借金があったことを知りました。Aさんは司法書士に相談し、相続放棄申述の際に事情説明書を添付して「父の死亡を知った時点では財産・負債の存在を認識しておらず、債権者からの通知により初めて負債を知った」旨を説明しました。
家庭裁判所は、Aさんと父親の関係、生前の交流の欠如、および負債を知った経緯を総合考慮し、「負債の存在を知った時点を熟慮期間の起算点とする」と判断され、結果として、Aさんの放棄申述は期間内のものとして受理されました。
ポイント
この案件での重要なポイントは以下の通りです。
- 相続人が被相続人と疎遠で、財産状況を把握できない立場にあった
- 債務の存在を知ってから速やかに家庭裁判所へ申述した
- 経緯を裏付ける資料を添えて、事実を誠実に説明した
逆に、督促状を受け取っていながら長期間放置していたり、相続財産を処分・使用していた場合は、熟慮期間経過後の放棄は認められにくくなります。
今すぐチェック!相続放棄を検討すべき3つのケース
親族との関係が複雑だったり、故人の財産状況が不透明だったりすると、相続を受け入れるべきか放棄すべきか判断に迷うものです。ここでは、相続放棄を検討したほうがよいと考えられる代表的な3つのケースをご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせながら、今後の参考にしてください。
1.借金が財産より多い場合(債務超過)
相続放棄を考える最も多い理由が、この「債務超過」です。故人が残した財産よりも借金や未払金のほうが多い場合、相続人がそのまま相続すると負債を引き継ぐことになり、結果的に自分の財産や生活に深刻な影響を及ぼしかねない事態となります。
例えば、故人が事業を営んでいて、事業の失敗により銀行からの融資や取引先への未払金が残っている場合です。預金や不動産などの資産が500万円しかないのに対して、借入金や未払金が2,000万円ある場合、差し引き1,500万円のマイナスとなります。このとき相続人が何もせずに相続を承認してしまうと、自分名義の預金や自宅などを処分して返済する義務を負うことになります。
さらに注意が必要な要素として、借金には連帯保証債務や未確定の損害賠償債務なども含まれます。目に見える財産だけでなく「潜在的な負債」の存在を見落とさないことが重要です。
2.相続トラブルに巻き込まれたくない場合
相続は、家族や親族間の感情的なもつれが表面化しやすいタイミングでもあります。遺産分割の話し合いが難航し、兄弟姉妹や配偶者同士で対立が深まると、精神的にも時間的にも大きな負担がかかります。こうしたトラブルに最初から関わりたくない、あるいは自分が関わることでかえって状況が悪化すると感じる場合には、相続放棄という選択肢が現実的な解決策になることがあります。
ただし注意したいのは、相続放棄をすると「すべての財産・負債を放棄する」ということです。仮に故人との思い出の品や形見など、金銭的価値は低いが感情的に大切なものがあったとしても、相続放棄をすると法律上それらを受け取る権利を失います。一度放棄すると原則として撤回できないため、感情面と法律面の両方を冷静に整理してから決断することが大切です。
3.疎遠な親族の相続で事情がわからない場合
故人と長年疎遠だった場合や、そもそも面識がほとんどない親族の相続人になってしまった場合、財産状況はもちろん、生前の生活実態すらわからないことがあります。このような状況では、相続を受け入れることで思わぬリスクを抱え込む可能性があるため、相続放棄を選択肢として真剣に検討する価値があります。
例えば、数十年前に離婚した父親が別の地域で亡くなり、突然あなたに相続の通知が届いたとします。こうしたケースでは、財産がどれほどあるのか、あるいは借金や未払いの税金、損害賠償債務などを確認するのが非常に困難です。
さらに厄介なのは、亡くなってから時間が経つほど情報収集が難しくなることです。金融機関や役所への照会には相続人であることを証明する書類が必要であり、遠方に住んでいる場合は物理的な移動コストもかかります。調査に時間をかけている間に、相続放棄の期間制限(原則3か月)が迫ってくることもあり、焦りと不安が増していくことも考えられます。
このような場合、まずは市区町村役場で故人の住民票や戸籍を取得し、どこに住んでいたのか、家族構成はどうだったのかを確認することから始めます。次に、主要な金融機関や信用情報機関に対して照会をかけ、預金口座やローンの有無を調べます。ただし、これらの手続きは専門知識がないと複雑で時間もかかるため、早い段階で司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
期限内に手続きを完了させるための注意点
相続放棄は「3か月以内」という期限があるだけでなく、その間にやってはいけないことがいくつかあります。知らずに進めてしまうと、せっかく準備した手続きがすべて水の泡になってしまうかもしれません。期限を守っていても、手続き中の行動ひとつで「放棄を認めない」と判断されることもあります。ここでは、よくある失敗パターンとその対策について解説します。
相続財産に手をつけると放棄が無効になる
相続放棄を検討する際に最も注意すべきなのが、「相続財産に手を出してしまう行為」です。
民法921条1号は、相続人が「相続財産の全部または一部を処分したとき」は法定単純承認が成立すると定めています。これは、家庭裁判所に放棄を申し立てても、すでに相続を承認したとみなされ、放棄ができなくなる可能性があるという意味です。
「処分」とされるのは、財産を売却・譲渡・解約・引き出しなど、経済的価値に影響を与える行為全般です。たとえば、亡くなった父親の預貯金を解約し、そこから葬儀費用を支払った場合は注意が必要です。葬儀費用については、相続財産の範囲内で社会通念上相当と認められる支出であれば問題ないという傾向にあり、葬儀費用の支出自体が必ず単純承認に当たるわけではありませんが、金額が過大であったり、香典返しや法要費などにまで充てた場合には「処分行為」と見なされるおそれがあります。
また、実家の家財や自動車を売却する行為も典型的な「処分」に該当します。一見問題がないように思える「形見分け」にも注意が必要です。個人的な思い入れのある品(写真・衣類など)を受け取る程度なら問題になりませんが、高級時計・貴金属・絵画など経済的価値のある品を受け取る場合は、相続財産を受け取ったと評価されるリスクがあります。
ただし、相続財産の保存行為(民法920条・921条ただし書)に該当するものであれば問題ありません。たとえば、遺産建物の施錠、雨漏り修理、公共料金の支払いなどは、財産の価値を維持する目的であり、単純承認にはあたりません。
この線引きは非常に微妙で、判断を誤ると放棄が無効になるおそれがあります。したがって、「迷ったら何もしない」「専門家に確認してから動く」ことが最も安全な対応といえます。
書類不備で期限に間に合わないリスクと対策
もうひとつ見落としがちな落とし穴が、「書類不備」による手続きの遅れです。
相続放棄の申述には、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)と、申述人本人の戸籍謄本など、複数の公的書類が必要となります。これらを揃えるだけでも思った以上に時間を要し、気づけば3ヶ月の熟慮期間が迫っていたというケースは少なくありません。
特に注意すべきは、被相続人が転籍・婚姻・離婚・養子縁組などをしていた場合です。各自治体に別々に戸籍を請求する必要があり、取り寄せるだけで数週間かかることもあります。途中の戸籍が一通でも欠けていると、家庭裁判所に受理されず再提出になることがあります。この段階で期限を超えるおそれがあることには要注意です。
こうした事態を防ぐために最も重要なのは、早めに書類収集を始めることです。相続が発生したら、放棄を決めきれていなくても戸籍の取り寄せは進めてかまいません。戸籍謄本には有効期限がないため、先に揃えても問題ありません。また、「必要書類チェックリスト」を作成し、どの戸籍をどこから取り寄せるかを明確にしておくと、提出漏れを防ぎやすくなります。
さらに、司法書士や弁護士に依頼することも重要です。専門家に依頼すれば、戸籍類の取り寄せや申述書の作成を代行してもらえるため、手続きの正確さとスピードの両方でメリットがあります。
もし期限内に間に合わない可能性がある場合は、「熟慮期間の伸長申立て」(民法915条1項但書)を検討しましょう。家庭裁判所に事情を説明し、やむを得ない理由が認められれば期間を延ばしてもらえる場合があります。ただし、この申立て自体も熟慮期間内に行う必要があり、期間経過後には利用できません。早めの判断と専門家への相談が何より重要です。
相続放棄の手続きを円滑に進めるためには、
- 相続財産に不用意に手をつけないこと(単純承認のリスク回避)
- 必要書類を早めに準備すること(期限切れ防止)
この2つを意識しておくことが欠かせません。
専門家に依頼すべきケースと相談窓口
相続放棄の手続きは、必要な書類さえ揃えられれば個人でも申立てができます。しかし、実際に準備を始めてみると「この書類で足りるのか」「期限に間に合うだろうか」と不安に感じる方は少なくありません。また、相続関係や財産の状況が複雑な場合には、そもそもどのように進めればよいのか判断に迷うこともあるはずです。そのような場合は、お早めに専門家に相談されることをおすすめします。
複雑な相続関係や財産状況の場合
相続放棄が必要なケースの中には、「誰が相続人なのか」「財産や負債の全容がつかめない」など、状況が複雑に絡み合っている場合があります。こうした状況では、自力で手続きを進めようとすると判断ミスや書類不備によって申立てが却下されるリスクが否定できません。
例えば、被相続人が再婚していて前婚の子どもがいる場合、相続人の範囲が広がり、戸籍謄本を遡って取得する必要が生じます。この作業は手間がかかるだけでなく、途中でつながりが途切れていないか慎重に確認しなければなりません。また、被相続人が不動産を複数所有していたり、借金の連帯保証人になっていたりした場合、財産の全体像を把握するだけでも相当な時間を要します。
さらに、相続人が複数いる場合には、「自分だけ放棄してもよいのか」「他の相続人にも通知すべきか」といった判断が求められることもあります。こうした状況では、法律の知識に基づいた正確な判断が求められるため、専門家のサポートを受けることで混乱を防ぐことができます。
専門家は、複雑な戸籍関係の整理や財産調査のノウハウを持っており、見落としや誤解が生じやすいポイントをチェックしながら進めてくれます。また、申立書の記載内容についても、裁判所が求める水準に合わせて整えてもらえるため、一度で受理される可能性が高いといえます。
もし「自分で対応できるかどうか不安」と感じているなら、まずは一度相談してみることをおすすめします。状況を聞いてもらうだけでも、次にどう動けばよいのか見えてくるはずです。
期限が迫っている緊急時の対応
相続放棄には、「相続の開始を知った日から3か月以内」という厳格な期限が設けられています。この3か月という期間は、書類を揃えたり財産の状況を確認したりしているうちに、あっという間に過ぎていきます。特に、被相続人が亡くなってから数週間経ってから負債の存在を知ったような場合、残された時間はわずかです。
期限が迫っている状況では、「もう間に合わないかもしれない」と焦ってしまい、冷静な判断が難しくなることもあります。しかし、こうした緊急時こそ、専門家に相談することで適切な対応が可能になります。
例えば、弁護士や司法書士は、期限を意識したスケジュール調整に慣れており、必要な書類の優先順位をつけて効率よく進める方法を知っています。また、戸籍謄本の取得代行や申立書の作成を任せることで、ご自身は最小限の手続きだけに集中できるため、時間を有効に使うことができるはずです。
さらに、万が一期限を過ぎてしまいそうな場合でも、家庭裁判所に対して「期間伸長の申立て」を行うことで、延長が認められる可能性があります。ただし、この申立て自体にも一定の理由と準備が必要なため、専門家のサポートがあると安心です。
期限ギリギリになってから慌てるよりも、少しでも不安を感じた時点で早めに相談することで、焦らずに手続きを進めることができます。「もう遅いかもしれない」と諦める前に、まずは専門家の意見を聞いてみてください。
相談できる専門家と費用の目安
相続放棄の手続きについて相談できる専門家は、主に弁護士と司法書士です。それぞれ得意とする領域や対応範囲が異なるため、ご自身の状況に応じて選ぶとよいでしょう。
弁護士は、法律全般に関する相談に対応できるため、相続放棄だけでなく、その後に発生しうるトラブル(債権者とのやり取りや他の相続人との調整など)についてもサポートしてもらうことができます。特に、相続問題が複雑で訴訟に発展する可能性がある場合には、弁護士に依頼するほうが安心です。
司法書士は、相続放棄の申立書作成や戸籍謄本の取得代行を中心に対応します。訴訟代理権は持ちませんが、手続きそのものに特化しているため、比較的費用を抑えて依頼できることが多いでしょう。「とにかく申立てを確実に進めたい」という場合には、司法書士が適しています。
費用の目安としては、司法書士の場合で3万円〜5万円程度、弁護士の場合で5万円〜10万円程度が一般的です。ただし、事案の複雑さや依頼内容によって変動するため、相談時に具体的な見積もりを確認することをおすすめします。また、初回相談料が無料の事務所も多いため、まずは気軽にご相談されることをおすすめします。
伴法律事務所では、遺産分割や相続トラブルの専門家として、電話やメールでの無料相談を24時間無料で受付しております。また、初回相談は60分無料ですので、お気軽にご相談ください。
まとめ
相続放棄には期限があり、「いつまでに手続きをすればよいのか」を正しく理解していないと、思わぬ不利益を受けることがあります。相続放棄の期限は、民法で「相続の開始を知った日から3か月以内」と定められており、この3か月の期間は「熟慮期間」と呼ばれます。相続するか、放棄するか、あるいは限定承認を選ぶかを判断するための猶予期間です。
注意したいのは、起算点が「被相続人が亡くなった日」ではなく、相続の開始と自分が相続人であることを知った日である点です。たとえば、疎遠だった親族の死亡を後から知った場合、その時点から3か月がカウントされることもあります。
もし3か月以内に相続放棄の申述をしなかった場合、原則として単純承認したものとみなされ、借金を含むすべての相続財産を引き継ぐことになります。ただし、期限を過ぎてしまったからといって、必ずしも手遅れとは限りません。
たとえば、相続財産の内容が不明で調査に時間がかかる場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長申立てを行うことで、期限を延ばしてもらえる可能性があります。また、相続後に多額の借金が判明したなど、やむを得ない事情がある場合には、期限後でも相続放棄が認められる例もあります。
相続放棄は、単に「いらないから手放す」という単純な手続きではありません。一度放棄すると取り消しができないこと、他の相続人への影響があること、そして思わぬ財産が後から見つかる可能性もあることなど、慎重に判断すべき要素が数多く存在します。また、相続放棄は期限を守ることが非常に重要な手続きです。少しでも迷いや不安がある場合は、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談し、自分の状況に合った対応を検討することが、トラブルを防ぐための最善策といえます。ぜひお早めにご相談されることをおすすめします。
解決事例検索
相続財産の種類で検索する
相続の争点別に検索する
相続人との関係で検索する
相続・遺産分割に関するご相談は
初回60分無料です。
この記事の執筆者

弁護士 伴 広樹
経歴
神奈川県厚木市出身。1997年司法試験合格後、2000年に司法修習を修了(52期)し、弁護士登録。横浜市内の法律事務所に勤務後、2004年に伴法律事務所を開設。年間280件の相続の法律相談に対応している。
弁護士業務では①お客様の期待に沿う徹底した調査,②お客様が納得できる提案力,③お客様が安心して任せられる確実かつ迅速な処理の3つを心がけており、実際に業務に対しての評価も高い。
活動・公務など
・神奈川大学非常勤講師(2009年9月~2016年3月)
・明治大学リバティアカデミー(市民講座)講師(2015年~2016年)
・横浜弁護士会(現神奈川県弁護士会)常議員(2009年4月~2010年3月)
・一般社団法人神奈川健康生きがいづくりアドバイザー協議会神奈川健生成年後見センター運営委員会委員(2015年8月~)
・セミナー講師としての活動 川崎市役所,東京地方税理士会保土ヶ谷支部,神奈川県宅地建物取引業協会横浜中央支部,神奈川青年司法書士協議会など各種団体におけるセミナー講師を担当





