相続の手続きをしないとどうなる?期限を放置することのリスクとデメリットを解説
ご家族が亡くなり、遺産相続が発生したものの、手続きが複雑で後回しにしてしまっている方も多いのではないでしょうか。しかし、相続手続きを放置すると、以下のような3つの大きなリスクに直面する可能性があります。
- 生活費が引き出せなくなるなど、金銭的な困窮する
- 相続権のある相続人同士の対立や関係悪化
- 法的なペナルティや追加費用の発生
これらのリスクは、時間の経過とともに拡大し、やがて取り返しのつかない損失や対立に発展することも珍しくありません。この記事では、相続の手続きをしないとどうなるのか、放置した場合に実際に起こりうる具体的なリスクや注意点について、詳しく解説いたします。
相続の手続きをしないとどうなる?主なリスクとトラブル
相続手続きの放置は、単なる書類上の問題にとどまらない深刻な事態を招く可能性があります。日常生活への直接的な影響から、家族関係の悪化、そして法的なペナルティまで、多岐にわたる問題が発生する恐れまであるのです。
ここでは、相続手続きを放置した場合に実際に起こりうる具体的なリスクとして、以下の3点を解説いたします。
- 銀行口座が凍結されて生活費が引き出せない
- 相続人同士で揉め事やトラブルが発生しやすくなる
- 法的なペナルティや追加費用が発生する
1.銀行口座が凍結されて生活費が引き出せない
金融機関は故人の死亡を確認すると、その人名義の口座を直ちに凍結します。これは相続人全員の権利を保護するための措置ですが、故人の預金から生活費や光熱費を引き落としていたご家族にとっては、深刻な問題となりがちです。
銀行で口座凍結の解除をするには、相続人全員の同意を示す遺産分割協議書や、相続関係を証明する戸籍謄本一式が必要になります。これらの書類を準備するには通常数週間から数か月を要し、その間は一切の引き出しができません。もし、故人の口座に月額15万円の年金が振り込まれていた場合、配偶者の方はその年金を受け取ることができず、生活に困窮する可能性も考えられます。
さらに問題なのは、故人名義で契約していた公共料金やローンの自動引き落としです。電気・ガス・水道代が支払われないと、最悪の場合はライフラインが停止される恐れも。住宅ローンや生命保険料の支払いが滞れば、不動産の差し押さえや保険の失効といった、取り返しのつかない事態も起こり得るのです。
また、故人が事業を営んでいた場合は、事業用口座の凍結が取引先への支払いの滞納を招き、信用失墜や損害賠償請求のリスクも生じてしまいます。このような状況を避けるためには、相続開始後できるだけ早期に金融機関との手続きを進めることが大切です。
2.相続人同士で揉め事やトラブルが発生しやすくなる
時間が経過するほど、相続人同士の感情的な対立は深刻化する傾向が見られます。最初は「いずれ話し合えばよい」と考えていた方も、放置期間が長くなるにつれて不信感や不満が蓄積され、冷静な協議が困難になるケースが少なくありません。
特に問題となりやすいのは、故人の財産管理を事実上一人の方が担っている場合でしょう。他の相続人から「勝手に財産を使い込んでいるのではないか」という疑念を持たれやすく、たとえ適切に管理していても、後から通帳の記録や領収書が不十分だと、その使途を証明することが非常に難しくなります。
また、相続人の中に認知症や重篤な病気を患う方がいらっしゃる場合は要注意です。時間の経過とともに判断能力が低下し、遺産分割協議自体が成立しなくなる可能性も考えられます。この場合、成年後見人の選任手続きが必要となり、時間と費用がさらにかかることになります。
不動産の価値が変動することも、争いの大きな原因です。その理由は、相続開始時点で3000万円だった土地が、数年後に周辺開発により5000万円に値上がりした場合、「早く売却しておけばよかった」と後悔したり、「いや、値上がりを見越して保有すべきだった」と責任を押し付け合ったりといった状況が生じやすくなります。
さらに深刻なのは、相続人の一人が先に亡くなってしまう「数次相続」のケースです。例えば、兄弟3人で相続するはずだった財産について話し合いを先延ばしにしていたところ、次男の方が急死した場合、次男の配偶者や子供が新たに相続人として加わることになります。関係性が希薄な親族との協議は一層困難になり、解決までの時間も大幅に延びてしまうのです。
3.法的なペナルティや追加費用が発生する
相続手続きには法律で定められた期限があり、これを過ぎると様々なペナルティが科せられることになります。
最も重要なのは相続税の申告期限で、相続開始を知った日から10か月以内に申告・納税を完了させなければなりません。期限を過ぎると、まず無申告加算税が課せられます。これは本来の税額に対して15〜20%の割合で計算されるペナルティです。もし本来600万円の相続税を納めるべきだった場合、無申告加算税だけで90〜120万円が追加される事態になりかねません。
さらに深刻なのが延滞税の存在です。延滞税は期限の翌日から納税日まで日割りで計算され、年利は現在7.3〜14.6%程度に及びます。仮に1年間放置した場合、600万円の相続税に対して44〜88万円程度の延滞税が発生すると考えてください。
不動産の相続登記についても、令和6年4月から義務化されています。相続開始を知った日から3年以内に登記申請を行わないと、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。さらに、登記を放置している間に相続人の一人が亡くなると、その人の相続人も含めた複雑な権利関係となり、登記手続きの費用も大幅に増加する事態に発展します。
不動産の固定資産税も継続して課税され続けます。相続人が複数いる場合、税務上は「相続人全員の連帯債務」として扱われるため、一人が滞納すると他の相続人にも督促が行われます。滞納が続けば、不動産の差し押さえや公売の対象となり、市場価格を大幅に下回る価格で売却されてしまう可能性も否めません。
また、相続放棄を検討している場合は、原則として相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所への申述が必要です。この期限を過ぎてしまうと、借金も含めてすべての財産を相続したものとみなされ、故人の債務を支払う義務が生じてしまうため、十分にご注意ください。
相続手続きを放置すると危険!期限を過ぎた時の深刻な影響
相続手続きは、複数の手続きで期限が重要あり、それぞれを過ぎてしまうと深刻な法的・経済的不利益を被る可能性があります。特に注意すべきは、相続放棄の期限(3ヶ月)、相続税申告・納付の期限(10ヶ月)、そして遺留分請求の期限(1年)です。ここでは、これらの期限を過ぎた場合の具体的な影響について、詳しく解説していきます。
3ヶ月以内に相続放棄をしないとどうなる?
相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続を行わないと、法律上「単純承認」(プラスの財産もマイナスの借金も全て受け継ぐこと)したものとみなされます。相続放棄とは、主に被相続人(亡くなった方)の財産にマイナスの財産、つまり高額な借金がある場合などに、その財産を引き継ぐことを「放棄=しない」という手続きをすることです。何もせずに3ヶ月が経過してしまうと、プラスの財産もマイナスの借金も、すべてをそのまま無条件で引き継ぐことを意味します。
特に深刻なのは、被相続人に多額の借金やローンがあった場合です。相続放棄の期限を過ぎてしまうと、たとえ相続財産よりも債務の方が多い「債務超過」(借金が財産を上回る状態)であっても、相続人の方がご自身の財産で借金を返済しなければならなくなります。もし被相続人が事業に失敗して3000万円の借金を抱えていたとしたら、相続放棄をしなければその全額をあなたが背負うことになってしまう、という事態も起こり得るのです。
また、連帯保証人になっていた債務についても同様です。被相続人が他人の借金の連帯保証人だった場合、主債務者が返済できなくなれば、あなたが代わりに返済する義務を負うことになります。このような「見えない負債」は相続発生後に判明することが多いため、相続が発生したらできるだけ早期に被相続人の財産状況を調査し、必要に応じて相続放棄を検討することが非常に重要です。
なお、例外的に3ヶ月以降でも相続放棄が認められる場合もありますが、「相続財産が全く存在しないと信じていた」などの特殊な事情が必要で、家庭裁判所での厳格な審査が行われます。単に「間に合わなかった」という理由だけでは、難しいものです。確実性を考えるのであれば、やはり3ヶ月以内に決断する必要があります。また、限定承認の手続きを選択する場合も、同じく3ヶ月以内に手続きを進める必要があります。
10ヶ月以内に相続税申告・納付しないと延滞税が発生
相続税の申告と納付は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。この期限を過ぎてしまうと、本来の相続税に加えて延滞税が課せられ、さらに無申告加算税も発生する可能性が高いです。
延滞税は、納付期限の翌日から実際に納付するまでの期間に応じて計算されます。税率は期間によって異なりますが、年率約3〜15%程度となっており、期間が長くなるほどあなたの負担は重くなります。例えば、本来の相続税が500万円だった場合、1年間放置すると約50万円前後の延滞税が追加で発生する計算になります。これは、決して無視できない金額です。
さらに深刻なのは無申告加算税です。これは申告期限内に申告書を提出しなかった場合に課される税金で、本来の税額に対して15〜20%の割合で計算されます。税務署からの指摘を受けてから申告する場合は特に税率が高くなるため、自主的に期限後申告をする場合と比べて大幅に負担が増加することになります。
また、相続税には様々な特例や控除制度がありますが、期限内に申告しないとこれらの恩恵を受けられない場合があります。例えば、配偶者の税額軽減特例や小規模宅地等の特例は、期限内申告が適用要件となっているため、申告が遅れるとたとえ後から申告しても適用を受けることができません。これにより、本来であれば相続税がゼロになったはずのケースでも、多額の税負担が発生してしまう可能性があるのです。また、状況次第では確定申告が必要になることもあり、注意が必要です。
1年以内に遺留分請求しない場合のデメリット
遺留分とは、法定相続人が最低限確保できる相続分のことで、被相続人の配偶者や子、両親に認められた権利です。しかし、この遺留分を請求する権利(遺留分侵害額請求権)は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければ、時効により消滅してしまうのです。
もし遺留分請求の期限を過ぎてしまうと、たとえ明らかに法定相続分を超えるような不公平な遺言書があったとしても、もはやその是正を求めることはできません。例えば、被相続人が愛人に全財産を遺贈する遺言を残していた場合でも、配偶者や子が1年以内に遺留分請求を行わなければ、一切の相続財産を受け取ることができないことになります。
特に注意が必要なのは、遺留分侵害の事実を知った時点から1年という期限の起算点です。単に相続が開始したことを知っただけでは足りず、具体的に「自分の遺留分が侵害されている」という事実を認識した時点から1年と計算されます。そのため、遺言書の存在を知らずに過ごしていた場合などは、期限の判定が複雑になる場合があります。
また、遺留分請求は相手方に対する意思表示によって行うため、内容証明郵便などの確実な方法で通知する必要があります。口約束や曖昧な話し合いでは、後日「期限内に請求されていない」と主張される可能性も否定できませんので、法的に有効な方法で権利行使を行うことが重要です。
遺留分の算定や請求手続きは複雑で、ご自身で判断が難しい場合が多々あります。相続が発生したら、できるだけ早期に専門家に相談し、自分の権利がどの程度侵害されているかを確認されることをおすすめします。
「相続を10年放置」「何もしない兄弟」…リアルな放置事例とその末路
相続手続きを先延ばしにしているうちに、気がつけば数年、あるいは10年もの月日が経過していた…というケースは珍しくありません。「そのうち兄弟から連絡があるだろう」「面倒な手続きは後でまとめて処理しよう」と考えているうちに、状況は着実に複雑化している可能性があります。
相続手続きの放置は、時間が経てば経つほど解決が困難になるという、その典型的な事例です。特に10年という期間は、相続における重要な分岐点となることが多く、この時点で発生する問題は、単なる手続きの遅れを超えて相続人同士の関係性や法的権利に深刻な影響を与えるでしょう。
10年放置することで発生する複雑な権利関係と解決困難なパターン
10年間の放置期間中に発生する問題は、単純な手続きの遅延を大きく超えた複雑さを持つものです。
最も深刻なのは、相続人の一人が亡くなることで発生する「数次相続」(相続手続き中に次の相続が起きてしまい、関係者がネズミ算式に増えていく状態)の問題です。例えば、父親の相続を放置している間に、相続人である母親が亡くなった場合、父親の遺産と母親の遺産が混在し、相続関係が一気に複雑化します。このような状況では、配偶者や子どもたちといった新たな相続人が加わることで、関係者の数が倍増し、全員の合意を取り付けることが極めて困難になりがちです。特に、新たに加わった相続人が故人との関係が薄い場合、感情的な対立が生じやすく、話し合いそのものが成立しないケースも少なくありません。
10年という期間は、相続人それぞれの生活環境にも大きな変化をもたらします。転居による住所不明、離婚や再婚による姓の変更、病気や認知症の発症など、様々な要因により連絡が取れなくなったり、判断能力に問題が生じたりするケースが増加してしまうのです。こうした状況では、仮に相続手続きを開始しようとしても、必要な同意や署名を得ることが物理的に不可能となり、家庭裁判所での調停や審判に頼らざるを得なくなることも考えられます。
また、この期間中に不動産価格の変動や税制改正が行われることで、当初想定していた相続税額や分割方法が現実的でなくなるケースも頻繁に見られます。特に相続税の申告期限(10ヶ月)を大幅に過ぎている場合、延滞税や加算税により税負担が膨れ上がっており、相続人にとって予想外の経済的負担となることもあります。
兄弟が何も言ってこない場合に潜む危険性
兄弟からの連絡がないことを「問題ない証拠」と解釈するのは、非常に危険な判断です。実際には、沈黙の背後に様々な思惑や問題が隠されている可能性があり、それらが表面化したときの衝撃は計り知れません。
特に、以下のような「沈黙の裏に隠された危険」が考えられます。
- 誰かが密かに財産を使い込んでいるケース
相続財産の中でも特に現金や預貯金については、相続人の一人が単独で手続きを行える場合があります。他の相続人が気づかないうちに財産が移転され、後から発覚した時にはすでに大部分が処分されており、取り戻すことが極めて困難な状況に陥っているケースも少なくありません。 - 不満が蓄積し、爆発寸前のケース
長期間の放置により、兄弟間の感情的な距離が広がっていることも重要な危険要因です。最初は「いずれ話し合おう」という程度だった気持ちが、時間の経過と共に「なぜ自分から言い出さなければならないのか」という不満や「他の兄弟は財産に興味がないのかもしれない」という誤解に変化し、誰も行動を起こさない膠着状態が生まれているかもしれません。 - 兄弟の配偶者など第三者が介入しているケース
相続人本人は穏便に解決したいと考えていても、その家族が「正当な権利を主張すべき」と強く働きかけることで、関係が一気に悪化するケースは決して珍しいことではありません。この沈黙期間中に、相続人の一人に経済的な困窮や急な資金需要が発生した場合、突然相続財産の処分を迫られ、冷静な話し合いが困難となることも想定されます。
多くの方が想像する以上に、相続の放置は雪だるま式に問題を大きくしていきます。年月を経るごとに関係者の状況変化、必要書類の取得困難、さらには新たな相続の発生など、複数の要因が絡み合って解決の糸口を見つけにくくなってしまうのです。
特に兄弟間で「誰かがやってくれるだろう」という心理が働きやすく、結果として全員が何もしないまま時間だけが過ぎてしまうケースも散見されます。このような状況では、表面的には平穏に見えても、水面下では着実に問題が蓄積されており、ある日突然深刻な事態に直面することが考えられます。
遺産分割協議書を作らないとどうなる?
相続が発生してから数年経っているのに、まだ遺産分割協議書を作っていない…そんな状況ではありませんか?「面倒だし、まあそのうち…」と先延ばしにしていると、実は思いもよらない問題が次々と発生してしまう可能性があります。
遺産分割協議が未完了で不動産の名義変更ができない状態に?
遺産分割協議書がない状況では、不動産の名義変更(相続登記)を行うことができません。法務局での登記手続きには、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書が必要となるためです。
この状態が続くと、相続した不動産を売却したくても売ることができなくなってしまいます。例えば、実家を売却して介護費用に充てたい、老朽化した建物を解体して更地にしたいと考えても、被相続人名義のままでは一切の処分行為ができないのです。
また、不動産を担保にした借入れも不可能になります。事業資金や教育費などで急にまとまった資金が必要になったとき、本来であれば相続した不動産を担保に融資を受けることができますが、名義変更が完了していない不動産では金融機関も融資に応じてくれないでしょう。
さらに深刻なのは、「2024年4月から相続登記が義務化されたこと」です。相続開始から3年以内に登記を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。これまでは任意だった手続きが法的義務となったため、放置し続けることのリスクが格段に高まっているのです。
建物の修繕や改築を行う場合も同様です。台風や地震で被害を受けた際の保険手続きでも、所有者が明確でないことで支払いが遅れたり、複雑な手続きが必要になったりすることがあります。
相続財産の管理費用が年額10〜50万円継続発生する?
遺産分割が完了していない状態では、相続財産全体が相続人の共有財産として扱われるため、維持管理にかかる費用も相続人全員の負担となります。特に不動産については、固定資産税や都市計画税、管理費、修繕費などが継続的に発生し続けるでしょう。
具体的な管理費用を以下にまとめました。
費用項目 | 費用の目安 | 特徴 |
固定資産税・都市計画税 | 年間10~30万円程度(一戸建て実家) | 不動産を所有している限り毎年発生 |
マンション管理費・修繕積立金 | 月額2~5万円程度、年間24~60万円程度(マンション) | 居住の有無にかかわらず支払い義務がある |
空き家管理委託費 | 月額1~3万円程度(専門業者に委託した場合) | 定期的な清掃、庭木の手入れ、防犯対策など |
修繕費 | 数十万円~数百万円(状況に応じて不定期発生) | 台風や地震による被害、老朽化による大規模修繕など |
問題なのは、これらの費用負担について相続人同士で明確な取り決めがされていない場合が多いことです。実際には一人の相続人が立て替えて支払っているケースが多く、後になって他の相続人との間で「兄が勝手に修繕工事を発注した」「妹が管理費を滞納している」といったトラブルになることも珍しくありません。
また、空き家の場合は特定空家等に指定されるリスクもあります。市町村から特定空家等に指定されると、固定資産税の軽減措置が受けられなくなり、税額が最大6倍に跳ね上がる可能性があるのです。さらに行政代執行による強制解体が行われた場合、数百万円もの解体費用を請求されてしまうことも考えられます。
次世代に相続人が増えて話し合いがより困難になる?
相続手続きを放置している間に、相続人の中で新たな相続が発生すると、問題はさらに複雑化の一途をたどります。例えば、当初は兄弟3人で相続する予定だった財産が、そのうちの1人が亡くなることで、その子どもたち(甥・姪)も相続人として関わることになり得るのです。
3人での話し合いでも意見がまとまらなかった遺産分割が、相続人が5人、7人と増えることで、合意形成の難易度は格段に上がってしまいます。血縁関係が薄くなるほど感情的なつながりも希薄になり、純粋に経済的な利害で判断されがちです。また、所在不明である、外国で生活しているなど理由も様々で、相続人を特定すること事態が難しい状況になりかねません。
遺産分割協議書があれば、将来このような数次相続に備え、円滑な財産承継を実現することが可能です。
また、認知症などにより判断能力が低下した相続人がいる場合は、成年後見人の選任が必要になることもあります。家庭裁判所での手続きが必要になり、時間とコストがさらにかかることになりかねません。
多くの方が「とりあえず相続税の申告だけ済ませておけば大丈夫」と考えがちですが、実際には遺産分割協議書がないことで、日常生活や将来の財産管理に大きな支障をきたす可能性があります。特に不動産を含む相続財産がある場合、その影響は深刻です。
今からでも間に合う!相続のトラブルを防ぐためにできること
相続手続きを長期間放置していると、「もう手遅れかもしれない」と諦めたくなるお気持ちもあるでしょう。しかし、実際には今からでも十分に対処できる方法はあります。重要なのは現状を正確に把握し、適切な順序で進めることです。
まず取り組むべきは、相続財産と相続人の正確に把握することです。これは相続手続きの土台となる非常に重要な作業ですので、丁寧に進めることをおすすめします。
【ステップ1:相続財産と相続人の全体像を整理する】
- 相続財産の調査
プラスの財産とマイナスの財産を分けて整理しましょう。プラスの財産には預貯金、不動産、株式、生命保険金、退職金などが含まれます。通帳や権利証、証券会社からの報告書などを確認し、金融機関に残高証明書の発行を依頼することで正確な金額を把握できるでしょう。一方、マイナスの財産として借金、住宅ローン、クレジットカードの未払い金、税金の滞納分なども調べる必要があります。 - 相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得します。この作業により、認知した子どもや前妻との間の子どもなど、予期していなかった相続人が判明する場合もあります。戸籍の取得は本籍地の市区町村役場で行いますが、転籍している場合は複数の自治体から取り寄せる必要があるでしょう。
財産目録の作成時は、各財産の評価額も記載しておくと後の話し合いがスムーズになります。不動産については固定資産税評価額や路線価、預貯金は死亡日時点の残高、株式は死亡日の終値といった具合に、統一した基準日で評価することが大切です。この整理作業は時間がかかりますが、相続税申告や遺産分割協議書作成の際に必須となる情報ですから、じっくりと丁寧に進めてください。
【ステップ2:家族・兄弟姉妹との話し合いを進める】
相続人と財産の全体像が見えたら、次は家族・兄弟姉妹との話し合いです。長期間放置していた状況では、相続人それぞれが異なる思いや事情を抱えている可能性が高いため、感情的にならず建設的な対話を心がけることが重要です。
- 連絡を取り直す工夫
話し合いを始める前に、まず連絡を取り合える関係を築き直しましょう。突然「相続の件で話し合いたい」と切り出すのではなく、自然な流れを意識してみてはいかがでしょうか。久しぶりに連絡を取る相手がいる場合は、共通の親族を介して連絡を取ることも効果的です。 - 現状認識の共有と協調姿勢
実際の話し合いでは、まず現状認識を共有することから始めます。状況を率直に伝え、今後どのように進めたいのか、相談する姿勢を示しましょう。一人が主導するのではなく、「皆で相談しながら進めたい」という協調的な姿勢が非常に重要です。 - 段階的なアプローチ
遺産分割の具体的な内容に入る前に、まずは手続きの進め方について合意を得るのが得策です。例えば、「まずは正確な財産調査を行い、その結果を踏まえて改めて話し合う」「必要に応じて専門家に相談する」といった段階的なアプローチを提案してみてはいかがでしょうか。いきなり「誰が何を相続するか」という本題に入ると、感情的な対立が生まれやすくなります。 - 各人の事情・希望の丁寧な聞き取り
話し合いの際は、各人の事情や希望を丁寧に聞き取ることも大切です。例えば、実家の不動産について「住み続けたい」という希望がある人、「現金化して分けたい」という考えの人、「維持費が心配」という不安を持つ人など、立場や状況により異なる思いがあるでしょう。これらの背景を理解し合うことで、全員が納得できる解決策を見つけやすくなるはずです。
【ステップ3:専門家のサポートを活用する】
家族間での話し合いが整ったら、専門家のサポートを受けることを検討しましょう。相続手続きには法律の専門知識が必要な場面が多く、特に長期間放置していた案件では複雑な問題が生じている可能性があります。
- まずは無料相談を利用
ご自身の状況を客観的に把握することから始めましょう。法テラス(日本司法支援センター)では、収入・資産が一定額以下の場合に無料の法律相談を受けられます。また、多くの自治体でも月1~2回程度、弁護士や司法書士による無料相談会を開催していますので、ぜひ活用してみてください。これらの相談では、現在の状況の法的な問題点、今後必要な手続き、おおよその費用や期間について基本的な情報を得ることができます。 - 専門家選びのポイント
相続に特化した経験豊富な事務所を選ぶことが重要です。一般的に、こんな時はこの専門家、という目安があります。
状況 | 適した専門家 |
相続税申告が必要な場合 | 税理士 |
不動産登記や家庭裁判所での手続きが必要な場合 | 司法書士 |
相続人間で争いがある場合 | 弁護士 |
ただし、複数の手続きが必要な場合は、他士業との連携体制が整っている事務所を選ぶと効率的です。
- 相談時の心がけ
初回相談の際は、準備した資料(戸籍謄本、財産目録、これまでの経緯をまとめたメモなど)を持参し、率直に状況を説明しましょう。「何年も放置していて恥ずかしい」と思わず、現状を正確に伝えることで、より適切なアドバイスを受けられます。複数の事務所で相談を受け、説明の分かりやすさ、費用の明確さ、今後の進め方の現実性などを比較検討されることをおすすめします。
費用面では、手続きの複雑さや財産規模により大きく異なりますが、多くの事務所で分割払いや成功報酬制などの支払い方法を用意しています。また、早めに無料相談をすることで、生前贈与や保険金など、節税の観点から対策を講じることもできます。相続税申告については税理士報酬も相続財産から控除できる場合があるため、費用対効果を総合的に判断することが大切です。
まとめ
相続手続きの放置は、一時的には問題ないように感じられるかもしれませんが、時間が経つほど手続きは複雑になり、法的なリスクも高まっていくのが現実です。特に不動産がある場合は名義変更が義務化されており、罰則が科されるリスクもあるため、早めの対応が重要になります。
相続放置によって生じる主な問題は、相続人の増加による手続きの複雑化、必要書類の取得困難、不動産の管理責任、そして何より家族間での関係悪化などです。これらの問題は放置期間が長くなるほど深刻化し、最終的には想像以上の時間とコストがかかってしまう可能性があります。
相続の手続きは法的な知識が必要な場面も多く、個人で対応するには限界があります。必要な書類の収集など、葬儀の準備と並行して手続きを進めなければならないこともあり、大きな負担となるはずです。特に相続人が多い場合や不動産が複数ある場合、借金の存在が疑われる場合などは、専門家のサポートを受けることで、適切な解決策を効率よく見つけることができるはずです。
伴法律事務所は、遺産相続や遺産分割を専門とする法律事務所です。メールでのご相談は24時間、LINEによる相談も受付しております。お電話でのご相談も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。





