遺産相続の手続きを代行できるのは誰?対応できるサービスの内容と費用を解説
親が亡くなると、遺族は想像以上に多くの手続きが必要になります。「何を、いつまでにすればいいの?」「仕事もあるし、自分だけでできるのかな…」「そもそも誰に頼めばいいんだろう?」と、不安や疑問が尽きないのではないでしょうか。慣れない大変な手続きに追われ、心身ともに疲弊してしまう方も少なくありません。
この記事では、相続手続きの全体像から、自分で進める場合と専門家に依頼する場合のポイントや費用について解説します。一人で抱え込まず、まずはこの記事を読んで、第一歩を踏み出してみませんか。
相続手続きの全体像:そもそも何を、いつまでにする必要がある?
まずは、何が必要で、それぞれいつまでに対応すべきか、全体の概要と流れを把握することが大切です。
相続手続きは、大きく分けて「初期対応」「相続人の確定」「遺産の調査・評価」「遺産分割」「名義変更」の5つで進みます。
具体的な手続きと主な期限は以下の通りです。
- 死亡届の提出(7日以内)
葬儀の準備と並行して、故人が亡くなった日から7日以内に、市町村役場に提出します。 - 年金や健康保険の停止手続き、公共料金等の名義変更
こちらも比較的早く行うべき手続きです。 - 遺言書の有無の確認・検認
遺言書があれば、原則として家庭裁判所で検認手続きが必要です。 - 相続人の確定(3ヶ月以内)
故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を集め、法定相続人を特定します。場合によっては、時間がかかります。 - 相続財産の調査と評価(3ヶ月以内)
不動産、預貯金、株式、保険、借金など、プラス・マイナス全ての財産の総額を把握し、評価額を算出します。 - 相続放棄・限定承認の検討(3ヶ月以内)
故人に借金が多い場合など、相続を放棄する「相続放棄」や、プラスの財産の範囲内で借金を返済する「限定承認」を検討するなら、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所への申述が必要です。 - 準確定申告(4ヶ月以内)
故人の所得について、相続開始を知った日から4ヶ月以内に税務署に申告・納税する手続きです。 - 遺産分割協議・協議書の作成
相続人全員で話し合い、誰がどの財産をどれだけ相続するかを決めます。その内容をまとめるのが遺産分割協議書です。 - 相続税の申告・納税(10ヶ月以内)
相続財産が一定額(基礎控除額)を超える場合、相続開始から10ヶ月以内に税務署へ申告し、納税する必要があります。 - 不動産の名義変更(相続登記)(3年以内)
相続した不動産の名義を故人から相続人へ変更する手続きです。2024年4月からは義務化され、3年以内に登記をしないと過料が課される可能性があります。 - 預貯金、株式などの名義変更・解約
金融機関や証券会社に所定の書類を提出し、名義変更や解約を行います。
これらの手続きはそれぞれ異なる書類が必要です。平日の日中に各機関を回る必要があるため、仕事がある方にとっては働きながら全てを自分で行うのは想像以上の負担となるでしょう。
自分でやる?専門家に頼む?あなたに合った進め方の見つけ方
遺産相続の手続きは、もちろんご自身で進めることも可能です。しかし、その複雑さや時間的な制約を考えると、専門家に依頼するメリットは少なくありません。ここでは、自分で手続きを進める場合の難しさと、専門家へ依頼すべきケースを比較しながら解説します。
自分で手続きをする場合の基本的な流れ
ご自身で手続きを進める場合、前述の「相続手続きの全体像」を把握し、以下の流れで進めることになります。
- 初期対応: 死亡届の提出から、年金・健康保険の停止、銀行口座凍結解除に向けた準備など。多くの書類が必要な段階です。
- 相続人の確定: 故人の戸籍を出生から死亡まで遡って集め、法定相続人を特定します。本籍地が何度も変わっている場合、複数の市町村に請求する必要があり、郵送でのやり取りを含め2~3週間かかることも珍しくありません。
- 遺産の調査・評価: 不動産の評価証明書や登記事項証明書、金融機関の残高証明書、有価証券や保険の調査を行います。法務局や金融機関での手続きも発生するでしょう。
- 遺産分割協議と協議書の作成: 相続人全員で遺産分割について話し合い、その内容を法的に有効な書面(遺産分割協議書)にまとめます。
- 名義変更: 不動産の相続登記、銀行口座の解約・名義変更、証券会社での手続きなど、各機関で異なる書類と手続きが求められます。
これらの手続きは、基本的に平日の日中に行う必要があるため、働きながらでは相当な負担となるのが実際のところです。
相続手続きを自分でやることの難しさ
自分で相続手続きを進める際の最大の壁は、「手続きの正確さ」と「時間的制約」の両立です。その理由として、具体的に次のようなものがあります。
- 法的な期限が設けられている手続きが多いこと: 相続放棄は3ヶ月以内、準確定申告は4ヶ月以内、相続税申告は10ヶ月以内など、期限を過ぎると不利益を被るものもあります。
- 書類の不備による遅延: 戸籍謄本一つとっても、どこまで遡るべきか、除籍謄本と改製原戸籍の違いなど、専門知識が求められます。金融機関ごとに要求される書類が異なるため、何度も窓口に足を運ぶことになりがちです。
- 相続人同士の間での意見の対立: 遺産分割で感情的な対立が生じた場合、素人では対処が困難です。不動産の評価方法や分割方法で意見が分かれると、話し合いが長期化することも考えられます。
- 税務判断の複雑さ: 相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×相続人数)はありますが、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、特例の適用を検討する必要があります。判断を誤ると、余計な税金を支払ったり、申告漏れでペナルティを課されたりするリスクもあります。
- 平日の時間確保の難しさ: 銀行、法務局、市役所などの手続き先は、ほとんどが平日の日中しか対応していません。会社員の方であれば、何度も有給休暇を取得する必要があり、仕事への影響も大きくなってしまうでしょう。
それぞれのメリット・デメリット比較表
ご自身で手続きを進めるか、専門家に依頼するか、それぞれのメリット・デメリットを比較してみましょう。
項目 | 自分で手続き | 専門家に依頼 |
費用 | 実費のみ(数万円程度) | 実費+報酬(20〜50万円程度) |
時間負担 | 平日に複数回の外出が必要 | 初回面談と書類準備のみ |
専門知識 | 都度調べながら進める必要あり | 専門家の知識・経験を活用できる |
手続きの正確性 | ミスのリスクあり | 高い正確性が期待できる |
期限の管理 | 自己管理が必要 | 専門家が管理してくれる |
相続人の間の調整 | 当事者として対応 | 中立的立場からサポートしてもらえる |
税務対策 | 自己判断のリスクあり | 適切なアドバイスを受けられる |
ご自身で手続きを行う最大のメリットは、費用の安さです。専門家への報酬が必要ないため、戸籍謄本や証明書の取得費用、印紙代などの実費のみで済みます。自分のペースで一つひとつ理解しながら進められることも利点です。
一方で、専門家に依頼する最大のメリットは「安心感」と「時間と労力の節約」です。相続手続きに精通したプロが代行することで、書類の不備や期限の見落としといったリスクを大幅に減らすことができます。また、平日に何度も役所や金融機関に足を運ぶ必要がなくなるため、仕事への影響を最小限に抑えることも可能です。
相続財産の規模や煩雑さ、相続人の人数、そしてご自身の時間的な余裕など、総合的に判断することが大切です。特に、不動産が複数ある、相続人が多い、相続税の申告が必要な事例では、専門家のサポートを受けることで、結果的に時間とストレスを大きく軽減できるかもしれません。
【依頼を決めた方へ】相続手続きは誰に頼むのが正解?専門家の違いと選び方
専門家への依頼を決めたら、「誰に頼めばいいのか」という新たな疑問が生まれるかもしれません。相続手続きに関わる専門家は複数にわたり、それぞれ得意分野や法的な権限が異なります。適切な専門家を選ぶためには、その違いを理解し、ご自身の状況に合ったプロを見極めることが重要です。
弁護士・司法書士・行政書士・税理士の役割の違い
相続手続きをサポートする主な専門家は以下の通りです。
専門家 | 得意なこと・専門領域 | どんなケースに強い? |
弁護士 | 相続人間の紛争解決、遺産分割協議の代理、調停・審判代理、遺留分侵害額請求、幅広い相続手続き | 相続人間に揉め事がある、またはその可能性が高い場合。複雑な相続案件をまとめて依頼したい場合。 |
司法書士 | 不動産の相続登記(名義変更)、相続放棄・限定承認の申述書作成、遺言書の検認、遺産承継業務(預貯金解約等) | 不動産が主な相続財産である、相続放棄を検討している、預貯金等の名義変更も依頼したい場合。 |
行政書士 | 相続関係図・遺産分割協議書作成、預貯金等の解約手続き(書類作成中心)、遺言書作成サポート | 相続人間に争いがなく、預貯金が中心の相続財産の場合。費用を抑えたい場合。 |
税理士 | 相続税の計算・申告、税負担軽減のアドバイス、財産評価の適正化、生前贈与に関する相談 | 相続税がかかる可能性が高い(基礎控除額を超える)場合。節税対策をしたい場合。 |
手続きと依頼先を選ぶポイント
専門家選びで失敗しないためには、あなたの相続の状況を整理し、最適な依頼先を見極めることが大切です。以下のポイントを参考にしてください。
財産内容で判断する
- 預貯金が大部分なら: 行政書士に依頼すると費用を抑えられます。
- 不動産が含まれるなら: 司法書士への依頼が必要です。
- 相続税の対象となる規模なら: 税理士への依頼が欠かせません。
- 複数種類の財産がある、または複雑な場合: ワンストップで対応できる弁護士か、各専門家と連携している事務所を選ぶと手間が省けます。
相続人の関係性を考慮する
- 関係が良好で合意できているなら: 司法書士や行政書士で十分なケースが多いでしょう。
- 家族間に確執がある、連絡が取れない、意見が分かれているなら: 最初から弁護士に相談することをおすすめします。
時間的制約と優先順位
- 仕事が忙しく時間が取れないなら: 費用が高めでも包括的にサポートしてくれる専門家が賢明です。
- 時間に余裕があり費用を抑えたいなら: 一部の手続きのみを専門家に依頼し、自分で行う部分を作る選択肢もあります。
地理的条件も重要な要素
相続財産が遠方にある場合は、現地の専門家か、全国対応している事務所を探しましょう。特に不動産登記は管轄の法務局での手続きとなるため、地理的な要因は無視できません。
最も重要なのは、相続手続きの経験が豊富で、あなたの状況に適した提案ができる専門家を見つけることです。初回相談では、手続きの流れ、必要な期間、費用の見積もりについて具体的な説明を求め、複数の専門家に相談して比較検討することをおすすめします。
信頼できる専門家選び|6つのチェックポイント
安心して相続手続きを任せられる専門家を見極めるには、以下の6つのポイントを必ずチェックしましょう。
1.相続専門の実績と経験年数
単に「資格がある」だけでなく、相続手続きを専門的に扱っているか確認してください。ホームページで「相続手続き〇〇件以上の実績」「相続専門歴〇年」といった具体的な数字が明記されているかどうかがポイントです。
2.対応範囲の明確さ
不動産の名義変更、銀行口座の解約、税務申告など、相続手続きには多様な業務があります。どこまで対応してもらえるのか、他の専門家との連携体制があるのかを事前に確認しておくと安心です。
3.料金体系の透明性
「基本料金〇万円〜」といった曖昧な表記ではなく、「不動産1件につき〇円」「銀行手続き1行につき〇円」など、具体的な料金が明示されている事務所を選びましょう。追加費用についても事前に説明があるかどうかは非常に重要です。
4.初回相談での対応
相談時に親身になって話を聞いてくれるか、専門用語を使わずにわかりやすく説明してくれるかを観察してください。あなたの状況に応じた具体的なアドバイスがもらえるかも大切なポイントです。
5.連絡の取りやすさ
手続きの進捗報告や質問への回答が迅速にもらえるかどうかは、忙しい会社員の方にとって特に重要です。電話、メール、LINEなど複数の連絡手段があるか、担当者が固定されているかを確認しましょう。
6.所在地とアクセス
書類の受け渡しや面談が必要になる場合もありますので、通いやすい立地にあるかも考慮に入れると便利です。最近では、出張対応や郵送対応を行っている事務所も増えています。
これらの要素をバランスよく満たしている専門家であれば、安心して相続手続きを任せることができるでしょう。
気になる費用はいくら?相続手続きを依頼した場合の費用の全て
親の相続が発生したとき、「専門家に依頼したいけれど、費用がいくらかかるのか不安」と感じるのは当然です。ここでは、相続手続きの費用相場について解説します。
費用の相場と内訳を分かりやすく解説
相続手続きの依頼費用は、依頼先と手続きの複雑さによって大きく異なります。相続の手続きに係る士業の、依頼先別の費用相場は以下の通りです。
司法書士への依頼の場合
相続登記(不動産の名義変更)を中心とした手続きでは、基本料金が5万円〜15万円程度が一般的です。戸籍謄本等の収集、相続関係説明図の作成、登記申請書類の作成などが含まれることが多いでしょう。
ただし、相続人が多い場合や不動産が複数ある場合は、1件につき2万円〜5万円程度の追加料金が発生することもあります。
弁護士への依頼の場合
相続人間でトラブルがある場合や、複雑な財産分割が必要なケースの費用は、着手金として20万円〜50万円、成功報酬として相続財産の10%〜16%程度が目安です。
例えば、相続財産が1000万円の場合、合計で120万円〜210万円程度の費用がかかる可能性も考えられます。
税理士への依頼の場合
相続税の申告が必要な場合、相続財産の0.5%〜1.0%程度が相場です。相続財産が5000万円の場合、25万円〜50万円程度が目安となるでしょう。
土地の評価が複雑な場合や、生前贈与の検討が必要な場合は、追加で10万円〜30万円程度の費用がかかることもあります。
これらの基本報酬とは別に、実費として印紙代、登録免許税、戸籍謄本取得費用などが必要です。例えば、相続登記には固定資産税評価額の0.4%の登録免許税がかかります。評価額2000万円の不動産であれば、8万円の税金が別途必要になる計算です。
追加料金で損しないための注意点
相続手続きの費用で最も注意すべき点は、「初回提示された金額」と「実際の請求額」に大きな差が生じることです。これを避けるためのポイントを覚えておきましょう。
見積書の詳細確認は必須
見積書に「○○一式」と記載されている項目は要注意です。例えば「戸籍収集一式 3万円」と書かれていても、相続人が予想より多かった場合に追加料金が発生することもあります。必ず「どこまでが基本料金に含まれるのか」「どの時点で追加料金が発生するのか」を書面で確認してください。
相続財産の評価額による変動
相続財産の評価額が判明した後に料金が変更されるケースにも注意が必要です。「基本料金50万円」と言われていても、実際に財産を調査した結果、評価額が高額だったため「成功報酬として財産の1%を追加請求」されることもあります。事前に財産の概算額を伝え、それに基づく見積もりを取得することが重要です。
期間延長による追加費用
相続手続が長期化した場合の費用設定も確認しておきましょう。例えば「6ヶ月以内の完了を前提とした料金」と設定されている場合、手続きが長引けば月額3万円〜5万円の管理費用が発生するケースもあります。特に相続人が遠方に住んでいたり、必要書類の取得に時間がかかりそうな場合は、事前にこの点を確認しておくと安心です。
複数の専門家に依頼する場合の費用分担
司法書士と税理士の両方に依頼する際、それぞれが戸籍謄本を取得して重複費用が発生したり、連携不足により手続きが二度手間になったりすることがあります。事前に専門家間で連携を取り、費用分担について確認するようにしましょう。
必要最小限の依頼で費用を抑える方法
相続手続きの費用を抑えるためには、「何を自分で行い、何を専門家に任せるか」を戦略的に判断することが大切です。
段階的な依頼で費用をコントロール
すべての手続きを一括依頼するのではなく、まず相談料(1万円〜3万円程度)で現状分析と手続きの全体像を把握してもらうのも一つの方法です。その上で、法的に複雑な部分や時間的に困難な部分のみを依頼する、という進め方もあります。
例えば、戸籍謄本の収集は平日に休暇を取って自分で行い、相続登記の書類作成と申請のみを司法書士に依頼すれば、費用を3割〜5割程度削減できる可能性があります。
定額制サービスの活用
最近では、シンプルな相続手続きに限定した定額制サービスも増えています。相続人が配偶者と子のみで、不動産が1件、預金が数口座という標準的なケースなら、15万円〜25万円の定額で手続き一式を依頼できることもあります。ただし、少しでも複雑な要素があると対象外になる場合があるので、事前の相談で適用可能か十分確認してください。
書類収集代行の使い分け
戸籍謄本や住民票の取得代行は、1通につき1000円〜2000円の手数料がかかることが一般的です。必要な書類が10通を超える場合、この代行費用だけで2万円〜3万円になることもあります。平日に時間が取れる方であれば、最低限必要な戸籍のリストだけを教えてもらい、自分で取得することで費用を抑えることができます。
手続きの優先順位を見極める
「今すぐ必要な手続き」と「後回しにできる手続き」を見極めることも重要です。相続登記は2024年4月から義務化されましたが、相続税の申告が不要な場合は、預貯金の解約など緊急性の高いもののみを優先し、不動産の名義変更は時間をかけて検討するという選択肢も考えられます。
ただし、費用を抑えることばかりに気を取られて、重要な期限を逃したり、法的なリスクを見落としたりしては本末転倒です。一人で悩まず、まずは相談から始めることで、結果的に時間もお金も節約できることが多いものです。
専門家に依頼すべきケースの判断基準
相続手続きを専門家に依頼するかどうか、迷われる方は多いのではないでしょうか。確かに費用はかかりますが、すべての手続きを専門家に任せる必要はありません。重要なのは「どの手続きを依頼すべきか」を、あなたご自身で見極めることです。
ここでは、専門家への依頼を検討すべき具体的なケースと、その判断基準について詳しく解説していきます。
緊急度が高く、自分では難しい場合
相続手続きの中でも、特に緊急性が高く、専門知識が不可欠なケースがあります。
まず代表的なのが「相続放棄」です。もし被相続人(亡くなった方)に多額の借金がある場合、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。この期限を過ぎてしまうと、借金も含めてすべてを相続することになってしまいます。ご家族の将来を左右する重要な判断ですから、法的なアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。
次に、不動産の相続登記です。令和6年4月から義務化されており、3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。特に、複数の相続人がいる場合や、古い権利証が見つからないといったケースでは、司法書士などの専門家でなければ適切な手続きが困難な場面も多いものです。
税務関係では、相続税の申告期限も10か月と決まっています。基礎控除額(3000万円+600万円×相続人数)を超える遺産がある場合、期限内に申告しないと延滞税や無申告加算税が課されるリスクがあります。さらに、小規模宅地等の特例や配偶者控除などの優遇措置を活用するには、適切な申告書の作成と添付書類の準備が必須。税理士の専門知識なくしては、これらのメリットを享受することは難しいでしょう。
これらの手続きは、「やり直しがきかない」「期限が厳しく限られている」「専門知識が不可欠」という共通の特徴を持ちます。仕事で忙しい中、これらの複雑な手続きをすべてご自身で行うのは現実的ではありません。専門家に依頼することは、費用ではなく、むしろリスクを避けるための必要経費と考えることができます。
期限のある主要手続き一覧
手続きの種類 | 期限 | 主な依頼先 | 特に注意したい点 |
相続放棄 | 3ヶ月以内 | 弁護士 / 司法書士 | 一度行うと撤回不可。借金も財産も全て放棄することになります。 |
準確定申告 | 4ヶ月以内 | 税理士 | 故人が事業主だった場合などに必要。通常の確定申告とは異なります。 |
相続税申告 | 10ヶ月以内 | 税理士 | 節税特例の活用には専門知識が必須。過少申告は加算税の対象です。 |
相続登記 | 3年以内 | 司法書士 | 令和6年から義務化。怠ると過料が科される可能性があります。 |
トラブルのリスクが高い手続きの見分け方
最もトラブルリスクが高いのは「遺産分割協議」です。相続人が複数いる場合、全員の合意がなければ預貯金の解約も不動産の名義変更もできません。特に、次のような状況では感情的な対立に発展することが少なくありません。
- 相続人同士の関係が疎遠、または複雑な場合
- 遺産の評価額について意見が分かれる場合
- 認知症の相続人がいる場合(成年後見人の選任が必要になるなど、手続きが複雑化します)
不動産関係も要注意です。登記簿上の名義人が何代も前の先祖のままになっている場合、数十人の相続人全員から同意を得る必要が生じることもあります。また、境界が不明確な土地や、建物と土地の所有者が異なるようなケースでは、分割の割合だけでなく隣地との紛争のリスクも考慮しなければなりません。
事業承継が絡む場合も、専門的な判断が必須です。個人事業主の方が亡くなった場合、事業用資産の承継方法によっては思わぬ税負担が生じたり、長年の取引先との関係に影響したりする可能性があります。また、株式会社の代表者だった場合は、会社法に基づく適切な手続きも必要です。
これらのケースでは、法的知識だけでなく、税務・会計・不動産評価など多岐にわたる専門知識が求められます。さらに、相続人間の利害を調整するという人間関係の側面も非常に重要です。
期限がある手続きを依頼するメリット
相続手続きにはさまざまな期限があり、これらを遵守しないと大きな損失につながる可能性があります。専門家に依頼することで、これらの期限を確実に守りながら、最適な方法で手続きを進めることができるのが大きなメリットです。
たとえば、相続放棄の3か月期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算されます。つまり、被相続人の死亡を知った日ではなく、「自分が相続人であることを知った日」が起点となるわけです。この微妙な解釈の違いが、期限の計算に大きく影響することがあります。専門家であれば、このような法的な細かい点も含めて適切に判断し、アドバイスしてくれます。
準確定申告も4か月以内という期限があります。被相続人が自営業だった場合や、年金以外の収入があった場合は、死亡した年の1月1日から死亡日までの所得について申告が必要です。通常の確定申告と計算方法が異なる部分もあり、税理士に依頼することで正確な申告が可能となるでしょう。
相続税の申告期限10か月についても、単に期限を守るだけでなく、さまざまな特例制度を活用することで税負担を大幅に軽減できる可能性があります。例えば、配偶者の税額軽減制度を使えば1億6000万円まで非課税になりますが、適用要件や申告書の作成方法は非常に複雑です。また、小規模宅地等の特例では、居住用宅地について330㎡まで80%減額できますが、適用要件を満たしているかの判断には専門知識が欠かせません。
期限のある手続きを専門家に依頼するもう一つのメリットは、「並行処理」ができることです。例えば、司法書士に相続登記を依頼している間に、税理士と相続税の検討を進めることで、全体のスケジュールを大幅に短縮できます。また、専門家同士の連携により、手続きの重複や漏れを防ぐことも可能です。
費用対効果を考えても、期限切れによる損失リスクを避けられるメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
まとめ
親御さんが亡くなられた後の相続手続きは、戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更まで、複雑で時間のかかる手続きが少なくありません。仕事と並行して、平日に役所や法務局を回ることは現実的に困難な場合も多いでしょう。
しかし、だからといって手続きを放置することはできません。相続税の申告期限は被相続人が亡くなってから10ヶ月以内という期限があり、相続放棄を検討する場合は3ヶ月以内に手続きが必要です。また、2024年4月からは相続登記が義務化され、不動産を相続した場合は3年以内に名義変更を完了させなければいけません。
このような状況で心強いのが、司法書士や行政書士、弁護士、税理士といった相続手続きの専門家の存在です。彼らは相続に関する豊富な経験と専門知識を持ち、複雑な手続きを代行してくれます。戸籍謄本の取得から遺産分割協議書の作成、不動産登記、相続税申告まで、一連の流れをスムーズに進めてくれるため、お仕事を続けながらでも安心して任せることが可能です。
専門家に依頼する際の費用は確かに発生します。しかし、それ以上に時間的・精神的な負担を大幅に軽減できるメリットは計り知れません。また、手続きのミスや漏れを防ぐことで、後々のトラブルを未然に防ぐこともできます。
相続は多くの方にとって初めての経験です。一人で抱え込まず、まずは相続に詳しい専門家に相談してみることで、ご自身の状況に最も適した進め方を見つけることができるでしょう。わからないことがあれば、まずは一度、ぜひご相談いただきたいと思います。





