2015年9月17日開催|川崎市役所職員向け相続上級実務者研修

相続処理の実務

第1 遺産分割の流れ

1 遺産共有

 (1) 相続が開始すると遺産は,相続人の共有になる(遺産共有という)

 (2) 不動産の名義が被相続人のままであっても,法律上は相続人が法定相続分に応じて共有持分を持っている状態になる。

  ※ 相続人の1人が単独で,相続登記手続ができる。

 

2 遺産共有を解消し,相続人それぞれの取得分を定めることを遺産分割という

 (1) 遺産分割確定までの流れ

 

    相続人間の話し合い

      ↓

    遺産分割調停(家庭裁判所)

 

      ↓調停不成立ならば自動で移行

 

    審判(家庭裁判所)

 

      ↓即時抗告

 

    第2審(高等裁判所)

 

      ↓ 特別抗告,許可抗告

 

    第3審(最高裁判所)  

 

  Q 遺産分割はいつまでにしなければならないか?

 

 

 (2) 調停手続

   調停手続では,1か月~1か月半に1回程度の頻度で調停期日が開かれる。

   中立な調停委員2人が間に入り協議を重ねる。

   申立人と相手方が調停室に交互に入り,調停委員を介して協議を重ねる。

   長い場合には,1年を超えて調停手続をが行われることもある。

   ※講師が代理した遺産分割調停の最長は,平成19年3月の第1回から平成21年10月の第20回まで開催された。

   

 (3) 審判手続

  ① 調停は話し合いのための手続きなので,成立の見込みがない場合,調停は不調となり終了となる。この場合,自動的に審判手続きに移行する。

  ② 審判手続きでは,裁判所が当時者の言い分を検討した上で,遺産の分割方法を審判という形で決定する。

  ③ 家庭裁判所の審判に不服がある当事者は,2週間以内に高等裁判所に即時抗告の申立をすることができる。即時抗告がなされると高等裁判所は遺産分割の方法をさらに審理したうえで決定を出す。

  ④ 高等裁判所の決定に不服がある場合,さらに最高裁判所に抗告(特別抗告,許可抗告)をする制度もあるが,抗告できる理由が,憲法違反や法令の解釈に関する重要問題など極めて限定されていることから,最高裁判所への抗告が認められることは稀。

 

 (4) 遺産分割の方法

  ① 現物分割  

    遺産をそのままの状態で分割すること。土地を分筆して分ける場合など。

  ② 代償分割

    共同相続人の1人または数人に遺産を取得させ,その遺産を取得した相続人に他の相続人に対し金銭を支払う義務を負わせることにより分割する方法。

  ③ 換価分割

    遺産の全部または一部を競売などで金銭に変え,これを分ける方法。

  ④ 共有取得による分割

    共同相続人に遺産を共有で取得させる方法。

    遺産共有が通常の共有になる。

    ※1 遺産共有であっても,遺産分割を経た通常の共有であっても,被相続人から相続人への所有権移転登記の原因は「相続」なので,登記をみても遺産共有なのか遺産分割を経た通常の共有なのか判別ができない。

    ※2 通常の共有になっている共有物の分割は,地方裁判所における共有物分割訴訟によって行う。

 

     遺産共有となっている財産の分割→家裁の遺産分割調停・審判

     通常の共有となっている財産の分割→地裁の遺産分割訴訟

 

3 民事訴訟で争う事項

  ① 親子関係不存在確認請求

  ② 遺言無効確認

  ③ 遺産確認

  ④ 遺留分減殺請求 

  

   ※ただし調停前置主義

        家事調停を行うことができる事件については,まず家事調停の申立てをしなければならない(家事事件手続法257条1項)

   ※相続権の有無,遺言の有効性,遺産の範囲は,遺産分割審判の前提事項として審判手続において判断できると解されている。

   ※憲法82条1項「裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行ふ」との関係で,①権利義務関係の存否そのものを確定するためには,訴訟手続によらなければならず,②権利義務が存在することを前提として,その具体的内容を形成することは,非訟手続によることが許されると解されている。

 

第2 遺言について

1 遺言の方式

 (1) 特別方式の遺言

   病気などで死期が迫っている者が証人3人以上の立ち会いのもと口授により行う方法(死亡危急者遺言),伝染病隔離者が行う方法(伝染病隔離者遺言),船舶の中で行う方法(在船者遺言,船舶遭難者遺言)がある。

 (2) 普通方式による遺言は次の3種類がある。

  ① 自筆証書遺言(自筆による遺言)

  ② 公正証書遺言(公正証書による遺言)

  ③ 秘密証書遺言

 

2 自筆証書遺言

 (1) 遺言者が,遺言の全文,日付,名前を自署し,これに押印することによって作成する遺言(民法968条1項)

  ① 全て自署しなければならず,ワープロ書きは無効。

  ② 押印は認め印でもよく,住所の記載は不要。

  ③ 封書にする必要はなく裸のまま保管していても有効。

  ④ 誤字があっても意味がはっきりと分かれば有効。ただし訂正する場合には特別の方式が定められている。契約書などを訂正する場合によく行われる二本線を引いて書き直し,訂正印を押すだけでは有効な訂正とならない。

 (2) 検認手続

   自筆証書遺言は家庭裁判所で検認の手続きが必要。検認は,家庭裁判所において相続人立ち会いのもと遺言の内容や状態を確認する手続。

   相続人に対し遺言の存在と内容を知らせるとともに,遺言書の状態を明確にし遺言書の改変を防止するための手続で,遺言の有効・無効を判断するための手続ではない。

   遺言書が封書になっている場合,家庭裁判所において開封しなければならない。

 (3) 自筆証書遺言のメリット・デメリット

  ① メリット 

   ・いつでも気軽に作成できる。

   ・証人が必要ない。

   ・誰にも知られずに作成することができる。

  ② デメリット

   ・法律的な知識がないと,形式の不備により無効となったり,表現が不完全で解釈を巡って却って紛争になることがある。

   ・本当に本人が書いたものなのか争いになることがある。

   ・作成時に遺言書の内容を理解できる判断能力があったのか否か争いになることがある。

   ・全文を自署しなければならないので,長い遺言書は書くのが大変

   ・死亡後に発見されなかったり,第三者に破棄される可能性がある。

   ・家庭裁判所における検認が必要

 

3 公正証書遺言(公正証書による遺言)の作成方法

 (1) 公正証書遺言は公証役場の公証人に依頼して作成してもらう遺言。

  ① 公証人が遺言者の希望する遺言の内容を文書にし,これを遺言書に読み聞かせるか閲覧をさせ,遺言者が署名・押印をして作成する(民法969条)。

  ② 遺言者が署名できない場合は,公証人がそのことを付記して,署名に代えることができるので,病気などで字を書くことができない人でも遺言書を作成することができる。

  ③ 公証役場にいかなくても公証人に出張してもらい作成することも可能。

  ④ 公正証書遺言の作成には2人以上の証人が必要(民法969条)。

  ⑤ 公正証書遺言の作成には手間がかかるが,自筆証書遺言と効力は変わらない。せっかく公正証書遺言を作っても,その後にこれと矛盾する自筆証書遺言が作成されれば,後に作られた自筆証書遺言が優先することになる。

 (2) 公正証書遺言のメリット・デメリット

  ① メリット 

   ・公証人が文書を作成するため,形式の不備を理由に無効となることがない。

   ・偽造が問題となることがない。

   ・公証人が本人の判断能力があることを確認しながら作成するので,有効性が争いになる可能性が低い。 

   ・本人は署名,押印するだけでよい。

   ・原本が公証役場に保存されるため,遺言書がなくなったり破棄される危険がない。

   ・遺言書作成を依頼した公証役場を特定できなくても,本人死亡後であれば最寄りの公証役場で遺言書の有無を検索してもらうことができる。

   ・病気等で署名ができない場合でも作成できる。

   ・裁判所における検認の手続きが不要

 (3) デメリット

   ・公証人に依頼する必要があり手間がかかる。

   ・公証人の手数料が必要

   ・証人を2人以上用意しなければならない。 

4 秘密証書遺言

  秘密証書遺言とは,遺言者が遺言の証書に署名・押印して封書にし,これを公証人と証人2人以上の前に提出し,自分の遺言であることを述べて作成する遺言書。封書にしてから公証人に提出するので,せっかく公証人が関与するのに遺言内容に法律的な問題がないかチェックしてもらうことができず,内容に不備があれば無効になってしまうことがある。あまり使われていない方式。

 

第3 包括遺贈について

1 遺産の全部またはその一定割合を与える旨の遺贈を包括遺贈という。

2 包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)。

  単純承認,放棄,限定承認を選択することができる。

 

第4 相続放棄について

1 家庭裁判所への申述が必要

  相続放棄をするためには必ず,被相続人の死後に家庭裁判所に申述をしなければならない。

  取得分をゼロとする遺産分割の合意をしても相続を放棄したことにならない。

2 熟慮期間

  相続放棄は,相続の開始があったことを知った時から3か月以内(この期間を熟慮期間といいます)に,家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して行う。

  相続の開始を知った時とは,被相続人が亡くなったことを知り,かつ,自分が相続人になったことを知った時。

  遺産の調査が3か月間では間に合わない場合など相当な理由があるとき,相続人から裁判所に申立をして,熟慮期間を伸長してもらうことができる(民法915条1項ただし書)。

3 書式

  申述書の書式は家庭裁判所でもらえるし,家庭裁判所のホームページから書式をダウンロードすることができる。

  書類作成は簡単で,分からないことは家庭裁判所の窓口でも教えてもらえるので,専門家に依頼しなくても自分で手続を行うことができる。

4 相続開始前の相続放棄

  あらかじめ相続放棄をしておくことはできない(被相続人の死亡前の相続放棄は不可)

5 相続開始前の遺留分の放棄

  遺留分の事前の放棄は認められる

  父が生前に長男に全財産を相続させるという遺言書を作り,次男に遺留分の放棄をさせておけば,父が亡くなったとき遺言で長男が全財産を取得し,次男は遺留分を主張できない。

  ただし相続開始前の遺留分の放棄は,放棄する者が家庭裁判所に許可の申し立てをする必要があり,家庭裁判所が放棄の理由が合理的だと判断して許可した場合にのみ認められる(民法1043条1項)。

6 死亡を知ってから3か月を経過しても相続放棄が認められる場合

 (1) 相続人が遺産がないと信じたために3か月を過ぎしまっても,そのように信じたことについて相当な理由がある場合には,例外的に相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常認識できるであろう時から熟慮期間がスタートするというのが最高裁判所の判例(最高裁判所昭和59年4月27日判決)。 

  【最高裁判所昭和59年4月27日判決の事例 金融法務事情1060号13頁より引用】

   Xは,Aに対する貸金の連帯保証人であるYに対して,保証債務の履行を求める訴えを提起し,第一審で勝訴判決を受けた。ところが,その判決言渡し後まもなくYが死亡したため,判決送達手続が進められなくなり,訴訟は中断するに至った。Yの子であるY1~~Y3は,Yの死亡した日にその事実を知ったものの,Yと長い間没交渉であって,その生活ぶりを知らなかったため,この第一審訴訟の存在を知らず,また,Yの資産はまったくないと誤信していたため,相続についての手続をとらずに放置していた。そこで,Xは,Yの死亡後三カ月以上を経過してから,判決送達手続を進めるために訴訟受継の申立てをし,第一審裁判所は,Yの子(Y1~Y3を含む九名)に対してこの受継をさせて第一審判決を送達した。この時にはすでに,Yの死亡後一年近くを経過しており,Yの子らは,この送達によって初めて本件訴訟の存在とかYの保証債務について知ることになった。そこで,Y1~Y3は直ちに控訴する一方,家裁に相続放棄の手続をした。

  【判旨】

   相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかつたのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,このように信ずるについて相当な理由がある場合には,民法915条1項所定の期間は,相続人が相続財産の全部若しくは1部の存在を認識した時または通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。(反対意見がある。)

 

 (2) 事例検討

 

【名古屋高等裁判所平成11年3月31日決定のケース】

  このケースでは三男がした相続放棄の申述が認められるかが問題となった。

  三男は被相続人である父が不動産を所有していることを知っていた。しかし,父の死亡後に相続人間で次男が跡を継ぎ亡父の妻の面倒を見るという話し合いがあったこと,亡父に債務があることを聞かされていなかったことなどから,三男は自己が相続すべき遺産はないと信じて相続手続の一切を次男に任せていた。

  ところが,父の死後5年以上経過してから多額の連帯保証債務が発覚した。

  裁判所の判断は?

 

【東京高等裁判所平成12年12月7日決定のケース】

  遺産の一部について遺産分割協議書を作成した事案において,遺産分割協議書作成から5年も経過した後になされた相続の放棄が問題となった。

  この事案では長男と長女の2人が相続人だったが,被相続人が特定の資産及び債務を長男に相続させる遺言を残しており,長女は長男が遺産全てを取得することを了承した。

  そして遺言に記載されていない土地があったので,この土地も長男が相続する内容の遺産分割協議書を長男と長女の間で作成した。

  しかし,約5年後に多額の負債があることがわかり長女は相続放棄の申述をした。

  裁判所の判断は?

 

第5 相続人不存在の場合の相続財産管理人の事務と流れ

 

1 相続人不存在の場合

(正確には相続人のあることが明らかでないとき)に利害関係人または検察官が家庭裁判所に請求することで,相続財産管理人が選任される。

  相続財産管理人の報酬を確保するため,予納金が必要。

 

【申立予納金の例】

  平成24年1月申立

  横浜家庭裁判所 横須賀支部

  申立書記載の財産の内容 

   自宅の土地(固定資産税評価額 1000万円程度)

   預貯金なし

   負債 1社約900万円

  予納金 100万円

  管理人が換価に成功した金額 約400万円

 

2 手続の流れ

  ①申立

    ↓

  ②相続財産管理人の選任

    ↓

  ③家庭裁判所が管理人を選任した旨の公告(選任の公告)

    ↓

  ④公告後2か月経っても相続人のあることが明らかにならないとき,管理人は相続債権者及び受遺者に対し,2か月以上で定める一定の期間内に請求の申出をすべき旨を公告(債権申出の公告)

    ↓

  ⑤公告期間満了後の配当弁済

    ↓

   相続財産が全て弁済され残存しなければこれで手続終了

 

  残余がある場合

  ⑥債権申出の公告後,管理人の請求に基づき裁判所が,相続人があるならば6か月以上で定める一定の期間内にその権利を主張すべき旨をさらに公告(相続人捜索のための公告)

    ↓

  ⑦相続人としての権利者が現れないとき,相続人及び相続債権者の権利は失権(民法958条の2)

    ↓

  ⑧特別縁故者への財産の分与

    ↓  

  ⑨残余財産の国庫への帰属

 

3 相続人不存在の場合の手続を規定する条文

 ・民法951条~959条の11条 ※枝番があるので9条ではない

 ・民法953条が準用する27条~29条までの3条

 ・民法957条2項が準用する927条2項~935条まで(限定承認の規定)の9条

 ※破産法は277条まであり,破産規則は86条まである。

 ※相続財産管理人による清算に関して,債権調査,債権確定の手続が存在せず,配当弁済のルールに関する規定もほとんど存在しない。

 

Q 地方税の弁済は優先されるか?

 

(参考)

民法929条(公告期間満了後の弁済) ※限定承認に関する条文

 第927条第1項の期間が満了した後は,限定承認者は,相続財産をもって,その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に,それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし,優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

 

 ※優先権を有する債権者とは相続財産の上に先取特権,質権,抵当権または留置権を有する者のことである(新版注釈民法(27)536頁)

 ※民法929条は民法957条2項で不在者財産管理人による弁済にも準用されている。

 

地方税法14条(地方税優先の原則)

 地方団体の徴収金は,納税者又は特別徴収義務者の総財産について,本節に別段の定がある場合を除き,すべての公課(滞納処分の例により徴収することができる債権に限り,かつ,地方団体の徴収金並びに国税及びその滞納処分費(以下本章において「国税」という。)を除く。以下本章において同じ。)その他の債権に先だつて徴収する。

 

【2つのケース】

 ・平成21年6月に配当弁済をしたケース

  裁判所 横浜家庭裁判所

  租税債権者 鎌倉市役所

 

 ・平成24年12月に配当弁済をしたケース

  裁判所 横浜家庭裁判所 横須賀支部

  租税債権者 横須賀市役所

 

第6 限定承認の事務と流れ

1 相続人不存在の場合の相続財産管理人による清算手続とほぼ同様の流れとなる。

2 相続人不存在の場合の清算手続と異なる点

 ① 不動産の任意売却ができない。

   債務弁済のため相続財産を売却する必要があるとき,限定承認者は,①競売に付するか,あるいは②裁判所選任の競売人の評価に従い価額を弁済しなければならない(民法932条)。

   相続人不存在の場合,管理人は権限外行為の許可を裁判所から受けて,任意売却が可能。

 ② 限定承認の場合,特別縁故者への財産分与,国庫への帰属がない。

 

3 実務上限定承認の件数が少ない。

  面倒で複雑な清算手続きを相続人が嫌うことが理由と思われる。

 

                H24       H25  

  相続放棄   169,300件    173,166件 

  限定承認     833件      797件  

            ※H25の横浜家裁は68件

                (司法統計より)

   全国に家庭裁判所本庁は50庁 1家裁あたり年15~17件

 

第7 特別受益,寄与分,遺留分の整理

1 特別受益とは

 (1) 相続人の中に,生前に被相続人から生活費などとして贈与を受けたり遺贈(遺言によって財産を無償で与えること)を受けた者がいる場合,これを「特別受益」と呼び,遺産に贈与の価格を足したものを相続財産とみなす(持戻し)。

   民法903条の「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」場合は広く解釈

 (2) 持戻し免除の意思表示

    明示も黙示も可能

    (黙示の例)

   ① 福岡高裁決定昭和45年7月31日

    被相続人は生前において,抗告人に対し,その法定相続分をはるかにこえる農地その他の不動産を贈与し,自己の営んできた農業を自己と同居してともに農耕に従事してきた抗告人に継がせる意思であつたこと,日付記載を欠くため自筆遺言証書としては効力のない書面中に,全財産を抗告人に譲渡する旨の記載があることなど判示事情のもとにおいては,被相続人は抗告人に対する右生前贈与につき特別受益の持戻免除の意思を表示していたものと認めるのが相当である 

   ② 東京高裁決定平成8年8月26日

    被相続人が昭和62年9月30日にした土地(持分5分の4)の妻への贈与は,妻の長年にわたる妻としての貢献に報い,その老後の生活の安定を図るためにしたものと認められる。そして,記録によると,妻には,他に老後の生活を支えるに足る資産も住居もないことが認められるから,右の贈与については,被相続人は,暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたものと解するのが相当である。

2 寄与分とは

 (1)   被相続人の家業に従事したり療養看護をするなど,被相続人の財産の維持や増加に貢献をした相続人には寄与分が認められ,その分遺産を多く取得することができる。

 (2) 寄与分の確定手続

    必ず審判による。

3 遺留分とは

 (1) 遺留分とは,きょうだい以外の法定相続人が最低限,相続することができる財産をいう。遺留分は,遺言で特定の相続人に財産を多く相続させた場合のほか,被相続人が生前に財産を贈与した結果,相続時に財産が少なくなってしまった場合にも主張できる。

 (2) 遺留分減殺請求の額

 

   遺留分の額(a)=(遺産の額+生前贈与の額-相続債務)×遺留分の割合

   遺留分侵害額=遺留分の額(a)-権利者が相続で取得した財産-特別受益

 

4 遺留分と特別受益の関係

  民法1030条「贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定(遺留分算定の規定)によりその価額を算入する。」

  Q 1年間より前にした相続人への贈与は遺留分の算定の基礎に入るのか?

    また遺留分減殺請求の対象になるのか?

 

     最高裁判所平成10年3月24日判決 民法1044条→903条準用

 

  Q 持戻し免除の意思表示がある場合はどのようになるか?

   

     下級審判例は算入説が一般的

 

  Q 多額の生前贈与を受けた者が相続を放棄した場合はどうなるか?

    相続人でない者に贈与した場合と同様に扱うのか?

 

5 寄与分と遺留分の関係

 (1) 遺贈は寄与分に優先する

    民法904条の2,3項「寄与分は被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」

 (2) 寄与分は遺留分に優先する  

    遺留分を侵害する寄与分の認定も認められると解されている。

 (3) 遺留分は遺贈に優先する。

    民法964条「遺言書は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。」

       (1)~(3)を遺贈,寄留分,寄与分の「三すくみ」と称される。

 (4) 遺留分減殺請求に対し,寄与分を主張できない(通説)

 

6 遺留分減殺請求の手続的問題

  家裁での遺産分割審判と地裁での遺留分減殺請求訴訟が同時進行する可能性

  ex遺言で特定の財産について相続人の一人に相続させ,他を定めない場合

   遺留分侵害額を算定するうえで確定が必要な「権利者が相続で取得した財産」は,遺産分割審判が終わらないと分からない。

 

第8 生前の対策

1 揉めやすい場合

 ① 自宅以外の遺産が少なく,共同相続人の一人が同居している場合

   居住していない相続人が,自宅を売却して代金を分けたいと考えるため

 ② 家業を承継している子がおり,家業のために必要な財産が遺産の大部分を占める場合

   家業を継いでない相続人が,売却による遺産の分割を希望するため

 ③ 共同相続人の中に先妻の子がいる場合

   先妻の子は他の相続人と人間関係が希薄なため。

 ④ 妻と兄弟姉妹が相続人となる場合

   妻と兄弟姉妹は人間関係が希薄なことが多いため。

 ⑤ 特別受益や寄与分がある

 

2 公正証書遺言を作っていてももめてしまう場合

 (1) 遺留分がケアされていない。

   対応方法

   ① 遺留分を残す

   ② 遺留分の減殺順序を決める

   ③ 特別受益を考慮

 (2) 不動産を共有で相続させる。

 (3) 遺言執行者の定めがない。

   →執行者がいると登記手続,預金払戻手続がスムーズ

 

3 遺言は必ず「相続させる」

 メリット

  ① 登記手続の簡便さ…単独申請が可能

  ② 対抗要件が不要

  ③ 農地法3条の許可

    農地法施行規則15条5項の改正により差がなくなる(大阪高裁平成24年10月26日判決を受けての改正と思われる) 

  ④ 登録免許税 平成15年4月1日以降遺贈と同額

 

4 自筆証書遺言の活用方法

 (1) 自筆証書が無効だと判断される可能性

 (2) 公正証書も自筆証書遺言で取り消せる。

   書き直しされる危険が常にある。

 (3) 自筆証書遺言のデメリット

  ・遺言能力が争点になる可能性

  ・偽造が争点になる可能性

  ・長文に不向き

 

5 死因贈与契約の活用

  ① 前の遺言書を取り消せる。

  ② 全部自署などの制限がないため作成が容易

  ③ 定期的に更新できる。

 

6 生命保険の活用

 (1) 生命保険金の特徴

  ・遺産ではない

  ・遺産分割の対象にもならない

  ・相続放棄をしても受け取れる

 (2) 生命保険の活用方法

  ・保険金を利用して遺留分を支払う。

  ・相続税など当面必要な資金を保険金によってまかなう。

  ・非課税限度額も大きなメリット

 (3) 保険金が特別受益となるか。

  ① 最高裁判所決定平成16年10月29日

    原則として否定。

    しかし共同相続人間の不公平が到底是認できないほど著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合は肯定

    特別の事情は下記の事情などを総合考慮

     ①保険金の額

     ②遺産総額に対する比率

     ③同居の有無,被相続人の介護等に対する献身の度合いなどの保険金受取人である相続人及びその他の相続人と被相続人との関係

     ④各相続人の生活実態

     最高裁判決の事案は6000万円近い遺産総額について,養老保険契約2口に基づく死亡保険金合計574万円の受領が問題となったケース。

  ② 東京高裁平成17年10月27日決定

    子2人が相続人,遺産総額1億0134万円,保険金合計1億0570円の事案で,子の一人が受け取った保険金額を全て特別受益として持戻しの対象とした。

 

7 死亡退職金の活用

 (1) 死亡退職金の特徴

   ・遺産ではない(最高裁判所昭和60年1月31日)

   ・受給権者固有の権利

   ・生命保険金同様,特別受益,特別の事情がある場合には遺留分減殺請求の対象となる可能性がある。

 (2) 死亡退職金の活用方法

  ① 会社経営者が死亡した場合,株主総会決議で死亡退職金を支給できるように準備をしておくことで,生命保険と同様な活用が考えられる。

    ex法人を生命保険金の受取人として,死亡退職金として相続人へ支払い。

  ② 非課税限度額も大きなメリット

  

8 特別受益の持戻し免除

  ただし遺留分を侵害する持戻し免除をしても,遺留分減殺請求が行使されると効力がなくなる。

 

9 経営承継円滑化法の遺留分特例

 (1) 除外合意

 (2) 固定合意

 

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